「丹下健三ディテールの思考」豊川斎赫
技術やディテールから丹下健三に迫った作品
豊川さんの著書をこのブログで取り上げるのは二冊目。もちろん丹下さんの本です。
取り上げられる建物は広島平和記念公園から赤坂プリンスホテルに至るまで全14作品。それらの歴史的な名作で、技術的なハードルをどう解決していったかが描かれています。
平和記念公園ではコルビュジエのモデュロールを参考に独自の丹下モデュロールという寸法体系を開発して、それをもとに設計をしたもののミリ単位の端数だらけの寸法になり、当時の建設技術では追い付かないレベルの寸法になってしまい、施工に苦労したこと、コンクリート打ち放しの耐久性を過大評価してしまい、後に本館や会議場を再築する際には鉄骨造の石張りを選択することになったことなども書かれています。絶えず技術的にもギリギリのせめぎあいをしていたことがうかがえます。
構造と設備の両立に苦心、錆に悩まされた旧都庁
旧東京都庁舎では、コアシステムの構造と設備の両立に苦しむ様子、竣工後には外装のスチール製ルーバーの錆問題の発生、などが紹介されています。実現しなかった都庁舎総合計画のプランも掲載されていますが、今月号の建築雑誌に掲載されていても不思議ではないくらい現代的でカッコいいプランです。
圧巻は東京カテドラルの吸音対策
そんな調子で香川県庁舎、倉敷市庁舎などの作品のエピソードが語られますが、個人的に特に感銘をうけたのが東京カテドラルでした。
HPシェルのあの美しい構造体を成立させるための苦労はもちろん、圧巻はその音響対策です。意匠的にはコンクリート打ち放しで行きたい。しかし音響の計算をすると残響時間が長すぎる。そこで考え出された選択肢は3つ。
①壁面に吸音処置をする
②壁面に凹凸をつけて音を乱反射させる
③壁面に共鳴吸音器を設置する
①、②は誰でも思いつくと思います。ところが採用されたのは③の応用で、なんと約2千か所のセパレーターの穴にグラスウールを詰めた塩化ビニルパイプを埋め込むというものでした。セパレーターの穴はコンクリートを打てば常に出てくるものなので、パッと見には吸音措置が取られていることにすら気づかせない方法です。実際私は以前、東京カテドラルを観に行ったことがありますが、この本を読むまで知りませんでした。デザインに最後まで妥協せずに技術と統合させるところまで持っていく丹下さんと周囲の超優秀なスタッフ陣の奮闘ぶりに頭が下がります。
実務経験者向けの丹下論
実務経験者ほどこの凄さに痺れると思います。期間も予算も限られている中で実務をやっているときに、壮大なコンセプトをブレずに実現するのは相当に大変なことです。ちょっとデザインを妥協すればコストもスケジュールも性能も満足でき、誰からも文句を言われないというときに、コンセプトをあきらめずに追いかけられるかどうか。
もう一度、東京カテドラル観に行かなきゃなと思いました。
評価:★★★★(5段階評価)