とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「保険のプロが生命保険に入らない理由」後田亨

日本生命の営業マンで現在は保険相談室の代表を務める後田亨氏の近著です。著者の保険に関する著作は以前も読んだことがあるのですが、家族が増えるにあたってもう一度保険について考えておこうと読んでみました。

保険がいかにお金お失いやすい手段か

①宝くじの還元率:50%弱
②競馬の還元率:75%
③保険の還元率:40%~80%

こうして保険とギャンブルを還元率で比較してみると、保険はくじの番号や馬券の代わりに人間の「不幸」をきっかけにしているというだけで、ほとんどギャンブルみたいなものだということがわかります。その証拠に保険会社のビルは立派で、給料は良く、多数の営業マンや営業のおばちゃんに人件費が払われています。テレビCMも有名タレントを使ったものがバンバン流れています。本来良い保険は還元率の高い保険です。だとすると、従業員が少なく、質素なビルで、テレビCMもやっていない運用者による保険だということになります。ということで、実はプロは有名な保険ではなく、そんな低コストな団体保険などに入っているようです。

掛け捨て以外の保険は絶対に勧めない

先に紹介したライフネット生命の岩瀬さんの本の主張とも一致しますが、貯蓄性のある保険は「まとまっていないお金で、何かあったときにまとまったお金が得られる」という保険の本来の意義からずれます。話を聞くと一見有利に聞こえてしまう貯蓄機能のある保険は実は利用者に不利な仕組みだということが読んでいるとよくわかります。自分で貯金したり運用したほうがよほどいい。保険は保険で掛け捨てが結局低コストで保険の機能を発揮できることがわかります。(必要な場合は、ですが)

読んでみて自分の中で保険に対するスタンスが固まってきました。

医療保険がん保険には入らない
・学資保険には入らない
・保険に入るなら掛け捨て
・入るとしても子供が自立するまでの期間の掛け捨ての生命保険で低コストなもの

会社に入ったばかりのころ、保険のセールスレディが会社まで営業に来ました。何も知らない新入社員を勧誘して契約を取り付けます。私のところにも来ました。あの時契約しなくてよかったです。その分のお金があれば自分で運用します。自分でためたお金はがんにも交通事故にも家事にも学費にもなんにでも使える万能の保険です。そして、そもそも病気になったりしないように健康に投資します。

そろそろ新入社員が入ってくる季節です。対談形式でわかりやすいので新入社員にもおすすめの本です。

評価:★★★★(5段階評価)

 

 

「投資バカの思考法」藤野英人

温和ながら明晰な語り口

アクティブファンドとして評価の高い「ひふみ投信」で知られるレオス・キャピタルワークスCIOの藤野さんの著作です。私はインデックスファンド派なのですが、以前マネーフォワードのイベントで藤野さんの対談を聞いたことがあり、その温和ながら明晰な語り口に感心した覚えがあります。

洞察力

その対談でも語られていましたが、投資に対するマーケット感覚を磨くのに街歩きが有効であると述べていました。どんな店に行列ができているのか。街で何が流行っているのか。その情報の最前線は、証券アナリストの手元に数字としてあがってくるよりもずっと早く、現場に、街中にある、と。

マーケットの本質を見抜く3つの習慣

①他人の目になりきる
「自分はどう思うか」ではなく、「相手はどう思うか」をイメージできれば、主観とは別の視点で物事を観察できます。

②関心事を増やす
 関心事が増えれば、それに比例して、インプットする情報量が増えます。

③物事を複合的かつ立体的に見る
 マーケットにおける経験、人生における経験、会社における経験を積むほど、断片の情報から全体を埋めていくことができます。

藤野さんはクラシック、社交ダンス、テニス、トライアスロン、野球観戦、カメラ、等様々な趣味を持っています。様々な趣味を持ってインプットのチャンネルをいろいろと変えることで、自分の中の視点が増えていくといいます。建築家だって建築雑誌ばかり読んで建築ばっかり見ているだけでは、視点が偏ってしまうように思います。

個人が株の運用でプロのファンドマネージャーに勝とうと思ったらこうした街の空気を真っ先に吸い込むことと、長期投資であることが重要そうです。藤野さんは初心者の投資で大切なポイントを下記のようにまとめています。

【初心者の投資で大切な5つのポイント】

①すぐにはじめる
②「手に汗をかかない額」を投資する(小さく)
③情報をしっかり集める
④一気に投じない(ゆっくり)
⑤最低3年間は実践する(長く)

その他にも投資に関してだけでなく、人生のスタンスに関わる金言がちりばめられています。専門用語を使わず、読みやすい文章なので、万人にお勧めできる本です。

ちなみにレオス・キャピタルワークスコーポレートロゴは佐藤オオキさんによるものだそうです。佐藤さんのエピソードも文中に出てきます。売れっ子ですね。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

投資バカの思考法

投資バカの思考法

 

 

「モデュロールⅠ」ル・コルビュジエ

モデュロールマン」という曲を作っています(笑)

最近、趣味でやっているバンドで曲を作っています。所詮素人のバンドなので、プロみたいな曲は作れません。でも、建築をやっている人間だからこそ作れる曲ならあるかもしれないと思って今作っているのが「モデュロールマン」という曲です(笑)

曲は大体出来上がっているのですが、そういえば「モデュロール」ってきちんと読んだことあったっけな、と思い、アマゾンで古本を注文しました。読みたい本が明確な時、アマゾンで古本を探すのが安上がりで時間もかかりません。

独自の寸法体系「モデュロール

モデュロールというのはコルビュジエが美しく、人間の尺度に合い、かつ工業生産の理にかなった寸法体系として独自に開発したものです。本書はその発想の瞬間から、ユニテダビタシオンなどの実作に応用するまでを書いたものです。ものの寸法を決めるのに、モデュロールに規定された寸法を使えば、美しく、機能的な建物が設計できると、と。そういう寸法の体系をコルビュジエは考えました。

コルビュジエの自己演出

読んでいて面白いのは文章の人称が「彼」であることです。自分で書いているくせに、その一部始終を「彼」で書き始める。それは今でいうと「プロフェッショナル仕事の流儀」や「情熱大陸」を自分で作って自分で編集し、ナレーションするようなものです。そうすることで、コルビュジエは自分のアイデアをあたかも客観的に評価を得たもののように語ることができます。気恥ずかしくてなかなかマネできる方法ではないと思いますが、この自己演出というかプロデュース能力があったからこそ、コルビュジエコルビュジエになれたのだと思います。

執念

ミケランジェロのカピトルの絵葉書に、もう一枚の絵はがきを重ね、その直角をカピトルのファサードの頂点に重なると様々な寸法が幾何学的な法則に基づいて決定されていることを発見するところから物語はスタートします。(これも演出の可能性がありますが)それを執拗に補強し、ブラッシュアップし、権威付けし(アインシュタインの名前も出てきます)、家具、展覧会の展示計画、建築に応用し、実現していくまでの執念たるやすさまじいものがあります。コルビュジエはあくまでもこれはツールだと言っています。これを使えば必ず美しく、機能的な建築ができるわけではない。ただ、デザインの仕方をデザインする。デザインするためのツールや考え方そのものをデザインするというのは本当にすごいことだと思います。

今、モデュロールを使って設計している人はほとんどいないと思いますが(実際には寸法が中途半端で使いづらかったりする)、その思想自体は今でも人間工学の分野で活かされているといえるかもしれません。

たまにはSD選書で建築の古典的名著に触れるのもいいものですね。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

モデュロール 1 (SD選書 111)

モデュロール 1 (SD選書 111)

 

 

 

 

「パパ1年目のお金の教科書」岩瀬大輔

この本の書評をほぼ書き上げたところでPCがフリーズしてしまい、泣く泣く初めから書き直しています。最近ノートパソコンの調子が悪くて本当にイライラする。。。

さて、本書はライフネット生命の社長の岩瀬大輔さんがパパ1年目くらいの読者を想定して書いたマネーリテラシーの入門書です。数年前に結婚して以来、それまで全く考えていなかった家計について自分がきちんとコントロールしなきゃいけないと思うようになりました。で、マネーリテラシーを高めるための本を割と集中的に読んでいます。

本書で気になった内容、共感した内容は以下の通りです。

体のメンテナンス費用はケチらない

まず、健康診断は必ず受けること。がん保険といっても保険ががんを治してくれるわけではない。保険会社の社長が言うと説得力があります。岩瀬さんは3か月に一度歯のメンテナンスのために歯医者に行き、ヨガやストレッチを生活に取り入れ、ジョギングをし、朝方の生活サイクルにして睡眠時間をきちんと確保しているといいます。

健康を害してしまうと、収入は減るわ治療費はかかるわ経済的にもダメージが大きいです。健康を維持することは重要なマネーリテラシーでもあるといえると思います。私も土曜日には約7kmのジョギングをし、日曜日にはジムで1時間強の筋トレをするのがルーティーンになりました。家でのお酒もほとんどやめ、Fitbitで睡眠時間や歩数、心拍数を把握するようにしています。特に面白いのが心拍数で、お酒を飲みすぎたり、疲れやストレスが溜まっていたりすると安静時心拍数が跳ね上がります。そういうときは意識的に休むようにしています。

幼い我が子に英語教育は必要か

筆者は海外で育ち、ハーバードまで出た国際派ですが、意外なことに子供の英語教育には疑問を持っているようです。所詮ツールなのだから、本人が行きたいと思ったときに留学をすれば必要に迫られて言葉なんていくらでもマスターできる、というスタンスです。実際、自分の周りでも海外赴任をした人はあっという間に言葉をマスターします。
先日、グーグルクロームの翻訳機能が凄いというので、海外のサイトを翻訳しながら読んでみました。ビルゲイツのブログ、MITメディアラボのHP、ボストンダイナミクス社のHP,CNNのHP、等々。あっという間にそれなりに読める日本語に翻訳されます。

翻訳機能はディープラーニングで日々進化していくでしょうから、英語が読めるというのはそれだけではあまり武器にならなくなってきそうです。むしろ、海外の文化に対する理解度とか、日本を平気で飛び出せるフットワークの軽さとか、そういうことのほうが重要なんじゃないかと読みながら思いました。

金利時代に保険で貯蓄はもったいない

これを保険会社の社長が言ってしまうところが好感が持てました。保険と貯蓄は分けて考えるという選択肢もあるのではないかと自ら言っています。というか、保険と貯蓄は分けて考えたほうが良いと私も思います。保険は最低限の内容に掛け捨てするのが一番いい。複雑になればなるほど保険会社の取り分がこっそり増えていくばかりです。

「保険というのは、現時点で十分な貯蓄がない人が、貯蓄と公的保険を補うためにあるものです。逆に言えば、お金持ちの人は個人向けの保険に入る意味があまりありません。」

 

奇をてらわず、良心的なアドバイスの詰まった良書です。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

パパ1年目のお金の教科書 (ちくま新書)

パパ1年目のお金の教科書 (ちくま新書)

 

 

 

 

 

 

 

「代官山再開発物語」赤池学

代官山アドレス開発のドキュメンタリー

久しぶりに建築がらみの書籍のご紹介です。再開発案件に初めてかかわっていることもあって勉強を兼ねて読んでみました。これは代官山アドレスが再開発事業として計画されてから実現に至るまでのドキュメンタリーです。

複雑な「再開発」という仕組み

再開発というのは、その場所にもともと住んでいた地権者がいて、その人たちに同じ規模の住宅やお店を新しく用意しつつ、高層化を図って住宅やオフィスを積層し、その売却益で新しい建物を建てるというスキームになっています。言葉にすると簡単ですが、この地権者を計画に合意してもらい、新しい建物にまとめ上げるというのは膨大な時間と労力がかかります。

「プロフェッショナル仕事の流儀」を観ているような感じ

特に代官山では既存の同潤会アパートの歴史が長いだけに権利関係が複雑で、その整理にはとんでもない苦労があったことがうかがえます。計画に何年もかかるので、その間に経済状況や地価も変動するし、お年寄りには亡くなる人も出てきます。事業に参加するといっていた企業が撤退したり、ギリギリのところで救世主として東京電力が登場したり、困難に次ぐ困難。プロフェッショナル仕事の流儀か何かを見ているような感じです。

再開発に関心のあるすべての方にお勧め

再開発に関する書籍はあまり充実しておらず、出ている本も教科書的なお堅い本が多く、事業にかかわる実際のイメージがなかなか湧きません。特に私は初心者で経験もないので、この本を読んでだいぶイメージが湧いてきました。これから仕事で再開発にかかわる方、あるいは自分が地権者だったり、再開発された構造住宅に住む方、近隣で再開発があり気になっている方などにもおすすめの良書です。

 

※ほかに良い再開発の本があったら教えてください。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

代官山再開発物語―まちづくりの技と心

代官山再開発物語―まちづくりの技と心

 

 

 

 

「新・生産性立国論」デービッド・アトキンソン

「新・観光立国論」「新・所得倍増論」に続く「新・生産性立国論」。ゴールドマンサックス仕込みの徹底的なデータ収集と分析に基づく提言は今回も切れ味抜群です。

徹底的にロジカルな論運びなので、章立ても明快です。

第1章 人口減少は「生産性」向上でしか補えない

第2章 「生産性」を正しく理解し目標を立てよう

第3章 「高品質・低価格」という妄想が日本を滅ぼす

第4章 「女性」をどうにかしないと生産性は上がらない

第5章 奇跡的に「無能」な日本の経営者たち

第6章 国がとるべき「3つの生産性向上策」

第7章 企業が生産性を上げるための「5つのドライバー」と「12のステップ」

 

次から次へと出てくる日本の悲観的データ

読んでいると次から次へと出てくる悲観的なデータ。日本はいかに生産性が低いか。人口減でヤバい状況か。どれほど女性が活躍できていないか。経営者が無能か。

日本の現状を正しく、正確に理解するためにこれでもかと厳しいデータが突き付けられます。途中「もうわかったから許して」と言いたくなるほどです。しかし、太平洋戦争末期の日本がそうだったように、いらぬプライドが現実を正しく見る目を曇らせます。目を開いて虚心坦懐にこの現実を見てからスタートするほかないと思わさせる強いメッセージが続きます。

結論の6章と7章で述べられたのは下記の提言です。

国がとるべき3つの生産性向上策

①企業数の削減
 生産性の低い中小企業は下手に守らず健全な淘汰に任せたほうが良い。
最低賃金の段階的引き上げ
 最低賃金と生産性は相関関係にある。今の日本の最低賃金は世界的に見て異常に低   
 い。そして生産性も低い。
③女性の活躍
 ロボットや移民で労働力不足は補いきれない。世界的に見て低すぎる女性の生産性を
 上げる必要がある。

生産性向上のための12のステップ

①リーダーシップ
まずは経営者が生産性向上にコミットすることが重要。

②社員一人一人の協力を得る
経営者が示したビジョンに社員が共感。

③継続的な社員研修の徹底
役職が低い人の研修だけでなく高い役職に対する研修のほうが重要。

④組織の変更
組織は時代に合わせて絶えずバージョンアップ。

⑤生産性向上のための新しい技術に投資
新しい技術や機械に投資し、生産性を図る。

⑥生産性目標の設定と進捗
経費削減、人件費削減という小手先の対策ではなく、本質的な生産性向上が重要。

⑦セールスやマーケティングも巻き込む
特に製造業はエンジニアの意見が強すぎるために「ガラパゴス現象」を起こしがち。
市場の意見に耳を傾けるべし。

⑧コアプロセスの改善
主たるビジネスプロセスの継続的な改善が重要。

ナレッジマネジメント

⑩生産性向上の進捗を徹底的に追及する

⑪効率よく実行する

⑫報・連・相談の徹底 

こうしてみると12のステップは特別目新しい内容ではありません。本書で追及されている生産性は、個人で朝方シフトの働き方にするとか会議の時間を短くするとかいうハウツーレベルの生産性ではなくて、、もっと高所に立って大局から見た企業の国家の生産性です。日本の経営者や政治家にも是非読んでほしい内容でした。

 

評価:★★★★★(五段階評価)

 

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

 

 

 

「橘玲の「中国私論」」橘玲

設計をしていると中国に出張で行く機会があります

建築の設計の仕事をしている関係でたまに中国に出張に行くことがあります。建物の外壁は構造ビルだとカーテンのようにぶら下げる「カーテンウォール」という技術を使いことが多いです。施工的には現場ではこれをひっかけるだけで済むというメリットがあります。このカーテンウォールを中国で作ることが多いため、中国に出張に行くのです。また、石材の加工も中国で行うことが多い。いずれも国内で製作するよりも中国で作ったほうが安いからです。

中国を知りたい

実際に行く機会があるとその国に対する興味が倍増します。中国というのはいったいどういう国なのか。自分が目にする光景は何を意味しているのか。それを知りたくて本書を手に取りました。

度を過ぎた大規模な開発

本書の冒頭から紹介されているのは中国各地で行われる大規模な都市開発と、鬼城(ゴーストタウン)の現状。投資目的で買われたマンションには実際にはほとんど入居者はおらず、工事自体が途中で中断されたものも多いという現状。内モンゴル自治区のオルドスなんかは一時期日本の有名建築家も召集されて、「オルドス100」という100件の前衛的住宅を建設するプロジェクトで盛り上がっていたのですが、どうやら中断してしまったようです。

裏切られることを前提とした社会

その他にも橘さんの視点で中国の様々な側面が描かれるのですが、不信社会ともいうべき中国の実態とそれを生んだ歴史的経緯が解説されます。弱肉強食の騙しあい。その一方で「幇」という濃密な人間関係の内側にいる人間(ヤクザの「兄弟」に似ているかもしれません)には徹底的にホスピタリティに溢れていいます。

本の内容を厦門で確認

先日も厦門に数日間の出張に行きましたが、厦門もものすごく都市開発が進んでいます。地下鉄なんて同時に何線も工事を進めています。ただ、高層マンションには明かりがまばらで、聞くと実際の入居率は6割くらいで、投資目的で済んでいない人も多いとのことでした。

また、偽札も多いことも影響してウォーチャットペイやアリペイなどの電子マネーの利用が日常化していました。

本を読む→現地で確認する→また本を読む

このプロセスを回している時が一番楽しいですね。

評価:★★★(五段階評価)

 

橘玲の中国私論

橘玲の中国私論