とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海

以前大ヒットしたこの本、アマゾンで古本が安く売っていたので買って読んでみました。ちょっと前のベストセラーというのは古本も大量に出回っていて安く手に入ります。

設定の勝利

さて、今更解説するまでもなく、本書はその名の通りドラッカーのマネジメントを高校野球のマネジメントに応用させてみるという設定の入門書であり、青春ドラマです。ドラッカーのマネジメントは名著として知られていますが、まだドラッカーを読んだことのない人にその言わんとするところを誰でも知っている野球で説明する、その設定の勝利です。

ドラッカーとの出会い

私がドラッカーを初めて読んだのは大学院生の頃、就職活動をしていた時でした。私は設計事務所に就職するため、いくつかの設計事務所にエントリーしていました。最初に面接のあった某社に行ったところ、面接開始まで結構待たされ、その間、同じ大学の先輩にあたる社員の方が、私の話し相手になってくれました。たまたま話題が読書の話になり、お勧めの本を聞いたところ、

ドラッカーは面白いよ」

と言われたのがきっかけでした。読んでみると、社会経験のない学生にはなかなかとっつきづらい内容なのですが、「社会人はこういう本を読んでいるんだ」と思いながら読んでいた気がします。

我が家の本棚のドラッカー

今も自宅の本棚にはドラッカーの「マネジメント」「テクノロジストの条件」「ネクスソサエティ」「プロフェッショナルの条件」などが並んでいます。どれもビジネスのお手軽なハウツー本とは一線を画す内容なので、さらっと読み飛ばせるような内容ではありません。数年に一度思い出したように手に取って読み返し、少しずつ理解しているような感じです。ドラッカーを読んで、それを自分の日々の仕事にどう応用するか。その一つのケーススタディーとして読むのが良いように思います。

 

評価:★★★(五段階評価)

 

 

「お金2.0」佐藤航陽

帯には「仮想通貨、フィンテック、シェアリングエコノミー、評価経済・・・「新しい経済」を私たちはどう生きるか!」とあります。まさにテクノロジーで経済の仕組みがどう変わろうとしているかを若き起業家が語っている本です。

「資本主義」から「価値主義へ」

最も印象に残ったのは「資本主義」から「価値主義」への変化を述べた章でした。著者は価値には3種類あるといいます。

①有用性としての価値価値

②内面的な価値

③社会的な価値

今まで資本主義で可視化できていたのは①だけだったのが、価値主義の考え方では②も③も可視化できるようになる。しかも①~③は互いにいつでも交換可能になる。具体的には社会的なネットワーク(ソーシャルキャピタル)を持っている人が力を持つようになり、営利と非営利の境界が消え、経済と政治の境界も消えていく。

そして複数の経済が並立する時代になり、人々はどの経済圏で生きるかを選ぶようになるといいます。

新しいマネーの乱立

たしかにすでにその傾向はあちこちで出てきているような気がします。youtubefacebook、インスタのフォロワーがずば抜けて多い人はそれだけで生きていけます。フォロワーが多く、発信力が多いという価値をお金に変換することも簡単です。個人の時間をネットで株のように売ったり、個人を株式会社のように投資対象にしたりするネット上のサービスもいろいろ出てきています。お金も円以外にビットコインもあればLINEマネーもあればTポイントもあれば、マイルもあれば、もはや新しいマネーのカンブリア爆発と言わんばかりの乱立ぶりです。世の中でなされている価値の交換を円だけではとても説明しきれなくなってきている。

資本主義のバージョンアップはIT界隈が成し遂げるかもしれない

驚いたのは著者の佐藤さんが自分より年下だったことです。中学時代だったか、高校時代だったか学校の先生が「今は民主主義と資本主義はとりあえず最もベターな社会システムだということになっている。ただし、ベストではなさそうだということはわかっている。いつかどこかの天才がこれに代わるシステムを考え付くかもしれない。」というようなことを言っていました。ひょっとしたか「資本主義」から「価値主義」への転換はそれにあたるかもしれないなと思わせられる本でした。ITという技術の発展が資本主義のバージョンアップをしつつある。そしてそれは既成概念にとらわれない若い世代がなしとげつつある。そんな感じがします。

文章も明快で分かりやすく、経営者として最先端を走りながら考えた新鮮な内容で、売れているのも頷ける名著です。

 

評価:★★★★★(五段階評価)

 

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

 

 

 

 

 

「お金は寝かせて増やしなさい」水瀬ケンイチ

最強のインデックスブロガー

インデックス投資ブロガーとして有名な水瀬ケンイチさんの著書です。水瀬さんのブログサイト「梅屋敷商店街のランダムウォーカー」は私もよく参考にしているサイトで、その見識の確かさと、どの金融機関にも所属しないブロガーならではの公平な視点が魅力です。個人的には最強のインデックスブロガーだと思っています。

インデックス投資とは世界経済の長期的な成長に賭ける投資法

インデックス投資とはTOPIXのような経済指数(インデックス)に連動して機械的分散投資を行うインデックスファンド(投資信託)で世界分散投資を長期にわたって継続的に行う投資手法です。

インデックス投資は世界に自分のお金を分散投資するので、個別株のように突然2倍に跳ね上がるとか、逆に一夜にして暴落して紙切れになるということがありません。その代わり、世界の経済に連動します。だからリーマンショックのようなことがあると試算はそれに合わせて減少してしまいます。ただし、長期的には世界経済はおおよそ3パーセントくらいずつ成長し続けています。インデックス投資はこの世界経済の長期的な成長に対する信頼をベースとしています。

インデックス投資(パッシブファンド)VSアクティブファンド

この投資法(パッシブファンド)は優秀なファンドマネージャーたちがその「専門知識」を活かして伸びそうな会社の株を買って運用してくれるパッシブファンドと比べてどうか。なんと70~80%のアクティブファンドはパッシブファンドに負けているのです。それはパッシブファンドの手数料の安さによります。パッシブファンドを売りたい人にとっては不都合な真実ですが、これは研究の結果ほぼ間違いない真実です。

バイブル「ウォール街のランダムウォーカー」

「結局インデックスファンドを長期的にコツコツ積み立てるのが一番」というこのインデックス投資の理論の総本山は、本書でも紹介されているバートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」という名著です。私も読んでみましたが、水瀬さんの本を読んで興味を持った人にはぜひ一読をお勧めします。

大事なのはブレないこと

インデックス投資で重要なのはコツコツ続けることで、そのためには心の底からこの手法を理解し、信頼し、ブレないことです。本書でもブレないためのコツがいろいろ開陳されていますが、水瀬さんもインデックス投資を始めてから本当にブレていないことに驚きます。ブログでも常に愚直に、冷静に、決めたことを淡々と続けられている様子がうかがえます。

ドルコスト平均法、リバランス、あとはほったらかし

生活防衛資金を確保したうえで、残りの資産を先進国株、日本株新興国株のインデックスファンドと国債にあるバランス(アセットアロケーション)で振り分ける。その割合で毎月一定額インデックスファンドを同じ金額だけ買い続ける(ドルコスト平均法)。年に一度それを最初に決めたバランスに微調整しなおす(リバランス)。あとはほったらかし。それだけです。

注目は第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」

注目は第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」です。リーマンショックギリシャショック、東日本大震災など世界経済のピンチを乗り越えてひたすらインデックス投資を続けた水瀬さん。なんと15年で積み立て元本は150%に増えたそうです。具体的には4000万円の元本が6000万円に増えています。具体的な金額はブログでも紹介されていなかったので元本の大きさも含めて驚きでした。私も10年早く知りたかった!

あのウォーレンバフェットでさえ、子孫にはインデックス投資を勧めています。インデックス投資の入門書としても、経験者が自分のスタンスを再確認する上でも超おすすめの一冊です。

 

評価:★★★★★(5段階評価)

 

お金は寝かせて増やしなさい

お金は寝かせて増やしなさい

 

 

 

 

 

 

「世界のエリート投資家は何を考えているのか」「世界のエリート投資家は何を見て動くのか」アンソニー・ロビンズ

カリスマコーチが世界の投資のプロに聞いた資産運用の奥義

アンソニー・ロビンズという世界カリスマコーチが金融界の大御所たちに投資の秘訣を聞いて回ったインタビュー集です。何をもって世界No1のコーチングなのか、そもそもコーチングって何なんだろうという疑問も若干ありますが、山崎元さんが解説を書いているということで読んでみました。

結局インデックスファンドで分散投資

ウォーレン・バフェット、ジョン・C・ボーグルくらいは知っていましたが、レイ・ダリオその他の投資家の名前はこの本で初めて知りました。みんなそれぞれ投資の秘訣や人生の秘訣を語っていますが、やはり共通しているのは手堅くインデックスファンドで世界に長期分散投資を続けることの効果を語っています。

他人のためにお金を使う人は幸せ

また、印象に残ったのは人は他人のためにお金を使った時のほうが幸せを感じる人の割合が高いという実験結果でした。慈善団体に寄付するとか、そういう使い方をすることで自己肯定感が高まったりもするのでしょうか。毎年決まった額をどこかに寄付することにしてみようかな。

 

評価:★★★(五段階評価)

 

 

 

 

「子育てしながら建築を仕事にする」成瀬友梨 編著

アトリエ事務所から組織設計事務所ハウスメーカー等で建築設計を仕事をしている執筆陣がどうやって子育てとの両立を図っているかをまとめた本です。

こんな建築本が出る時代になったか

本のタイトルを見たときに「こんな本が出る時代になったかぁ」とちょっと感慨深いものがありました。建築設計業界はこれまでながらく絵にかいたような長時間労働の業界で、プライベートや子育てや果ては健康まで大いなる犠牲を払いながら仕事をするのが常態化していました。そしてそんな働き方こそが建築への忠誠心を示すような風潮さえありました。私も以前はしょっちゅう徹夜をしたり休日出勤をしたりしていて、同じチームで働いていたエジプト人に「普通はWORK FOR LIFEだけど、日本人はLIFE FOR WORKだね」と呆れられたりしていました。

しかし、時代は変わって、設計事務所も健康的で効率的な働き方が求められるようになりました。さらに、共働きも増える中で子育てとの両立も大手を振ってできる世の中にかじを切っている最中です。

子育てと仕事を両立させるための様々な工夫

本書に登場する方々も両立のために様々な工夫をしています。

・男性でも子供のお迎えの日は18時には事務所を出る。そうでなくても20時~22時には退社する。

日建設計は「時間デザイン制度」でよりフレキシブルな働き方が可能になってきている。

・プライベートの状況を職場のチームにもオープンにし、共有する

・ルンバを活用する

・通勤時間を仕事や雑用処理の時間として有効に使う

・Slackを導入してチームメンバーとコミュニケーションを図る

・19時に退社する日と、22時に退社する日を交互に繰り返しメリハリをつける

・困ったら親の力を借りる

・職住近接、さらに保育園も近接させる

・フィリピン人のシッターさんに来てもらう

・仕事を人に任せる

・電動自転車、ルンバ、クイックルワイパー、洗濯乾燥機宅配サービスを活用

・朝四時過ぎから仕事をして17時半には仕事を終える

・夫婦で実家に居候する(子育てに親の力を借りる)

・宅配クリーニングの活用

などさまざまです。
共通しているのは

①労働時間を朝方にシフトし、短くする
②仕事をうまく人に任せる
③チームメイトや上司にも状況を共有してもらう
④親やベビーシッター等の力を借りる
⑤文明の利器を最大限活用して家事の負担を軽くする

といったところでしょうか。子供は国の宝です。急激な人口減少に向かう日本において、子供を育てやすい環境を作ることは最大の経済政策だと思います。こういう本をきっかけに建築業界が子育てのしやすい業界として、優秀な人材がどんどん入ってくる魅力的な姿に生まれ変わることを願って★5つです!

評価:★★★★★(5段階評価)

 

子育てしながら建築を仕事にする

子育てしながら建築を仕事にする

  • 作者: 成瀬友梨,三井祐介,萬玉直子,杉野勇太,アリソン理恵,豊田啓介,馬場祥子,勝岡裕貴,鈴木悠子,木下洋介,永山祐子,瀬山真樹夫,杤尾直也,矢野香里,松島潤平,吉川史子
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2018/02/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「ユニクロ潜入一年」横田増生

渾身のルポ

ユニクロの実態に迫るためになんと1年以上ユニクロで実際に働くという渾身のルポタージュです。

物語は2011年に「ユニクロ帝国の光と影」という本を出版した著者が、合法的に名前を変えてユニクロに勤め取材を続けるも、2016年末に文春に書いた記事が発覚し、ユニクロから懲戒解雇されるシーンからスタートします。

柳井社長の言葉が著者に火を付けた

前著「ユニクロ帝国の光と影」を出版した文春は、ユニクロから出版差し止めと二億円の損害賠償を求めて訴えられるも、2014年に裁判に勝っています。以降、ユニクロは横田氏からの取材を拒否し続け、柳井社長はあるインタビューで「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかぜひ体験してもらいたいですね」と発言。これが著者に火を付けました。

現場で見えてきたもの

潜入取材はイオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店に及びました。そこで見えてくるのはたしかにかなりハードな現場の状況と柳井社長の強烈なトップダウン。横行するサービス残業、疲弊する現場。海外の下請け工場も劣悪な労働環境がNGOによって報告されています。そしてそれらの実情に対してユニクロは真摯に対応していないといいます。

圧倒的リアリティ

ユニクロのように本部が作った巨大なシステムをマニュアル通りにオペレーションしていく現場なんて、ファストファッションだって飲食店だってどこもこんな感じだろうと思っていたので、特にびっくりすくことはなかったですが、やはり現場に潜入しているというリアリティはかなりのものです。

昔は田舎のロードサイドショップだったのに

中学生のころ、ユニクロはまだロードサイドの倉庫のような店構えの安売り店というイメージでした。ユニクロを着ているとちょっとバカにされる感じすらありました。それがあれよあれよという間に銀座に出店し、フリースでヒットを飛ばし、ロゴマークも店舗デザインも、CMもすべてがスタイリッシュに洗練られていき、気が付けば世界的なファストファッションブランドになってしまいました。柳井社長のその手腕は広く評価されているところです。私もインナーが中心ですがユニクロは良く着ます。が、この本を読むと自分もブラック企業を作った一人なのかもしれないと思えています。

我々ユーザーは安くて高品質な商品が売っていれば買いたいと思う

この本を労働者をこき使うブラック企業の経営者の物語だとだけ捉えるのは少し短絡的かもしれないなと思います。我々ユーザーは安くて高品質な商品が売っていれば買いたいと思うし、それを実現するには企業は血のにじむような努力をします。企業とは何のためにあるのか、資本主義は誰を幸せにして、誰を不幸にしているのか、そんなことを広く考える一つの材料になりました。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

 

 

 

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

 

 

「専業主婦は2億円損をする」橘玲

日本人の10人のうち6人は専業主婦になって2億円を放棄している!?
大学を出た女性が60歳まで働いたとして、平均的な収入の合計は2億1800万円だそうです。ところが日本人の10人のうち6人は専業主婦になってこの収入を放棄してしまっています。共働きをすればふたりで5億も6億も稼げるのに、それを放棄していることにどれだけ自覚的なのか、それが本書のテーマです。

女性の人生設計の指南書

本書はこれからは共働きの時代てあるという主張とともに、女性の人生設計の指南書として以下のようなポイントが語られています。

①幸福の8つのパターン
②仕事の内容、仕事の在り方の変化
③結婚の在り方の変化
④専業主婦の現状
⑤これからの女性の働き方戦略
⑥母子家庭のリスク

①は以前このブログでも紹介した橘玲さんの「幸福の「資本」論」でも出てきた幸福のカテゴリー分けです。(プア充、ソロ充、等々)実は本書は「幸福の「資本」論」の女性向けに特化してスピンアウト企画なのです。注目は⑤の内容。

・子育てを外注するという戦略
フリーエージェントという戦略
・生涯共働きが最強の戦略

働く女性の悩みは仕事と育児の両立です。どうしてもすべて自分でやろうとして無理をしてしまいがちなのを思い切って外注することで乗り切ることを提案しています。日本ではまだ抵抗があるかもしれませんが、香港やシンガポール、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシアでは中級以上の過程では家政婦いるのが当たり前だといいます。

確かに子育てで大変な時期にベビーシッターや家政婦の力を借りるのにトータルで数百万円かかったとしても、生涯年収2億円をドブに捨てるよりマシです。

また、これからは特に専門的な能力を持った人はフリーエイジェントでよりライフスタイルに応じた自由な働き方が可能な世の中になってくるといいます。クリエイティブクラスの人々は自分の好きな仕事を、好きな人と定年なく長く続ける時代。

そうして夫婦が生涯共働きを続ければ老後の資金の問題(年金制度の崩壊、老後資金への不安等)そのものが解決してしまう。

 

我が家も今年子供が生まれそうですが、とにかくいかに共働きを維持できる環境づくりをするかを最優先課題にしようと思ってまいます。で、まずは食洗器と乾燥機付きの洗濯機を導入しました(笑)フィリピン人の家政婦さんだったら子供の英語教育にもいいかな、とかそんなことを考えています。我が家にとっては「共働き維持のための投資は惜しまない」というスタンスの理論的バックボーンになる一冊です。

評価:★★★★(5段階評価)

 

専業主婦は2億円損をする

専業主婦は2億円損をする