とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「デザインの小骨話」山中俊治

ツイッターでのつぶやきがベースになった珠玉のコラム

東大教授にしてデザインエンジニアの山中俊治さんのエッセイ集です。前書「デザインの骨格」も大変面白かったので、書店であまり迷わずに手に取りました。もともとはsツイッターでのデザインに関するつぶやきがベースになっているとのことで、短い文章と魅力的なスケッチのセットが心地よい良書です。

原理にまで遡る理系的な思考のすごさ

読んでいるともともとが機械工学出身で、日産でカーデザインをされていた方なので、視点が理系で、言葉は明快です。例えばハンミョウの色について語り始めると、その色は「微細な物質の微細構造が引き起こす光学現象」だというところにまでたどり着きます。構造色だから色褪せない。だったらそれを腕時計のデザインに応用できないかと考え、実際にイッセイミヤケから発表するところまでたどり着いてしまう。単にハンミョウの羽を見て「綺麗だな」「虹色で鮮やかだな」で終わってはこのレベルの創造にはつながりません。なぜ鮮やかなのか、なぜいつまでも鮮やかなのか、その原理的なところにまで遡っているからこそ、その原理を応用できる。第1篇からこの調子です。そんなコラムが何十篇も並びます。少なくともデザイン関係の仕事をしている人には得るものの大きな本だと思います。

楕円をベースとしたカーデザイン仕込みのスケッチ

なんといってもスケッチが魅力的です。見ていて思ったのはやはりカーデザイナーのスケッチだなということです。前書でも語られていますが、山中さんはスケッチをするまえのウォーミングアップで楕円を描くそうです。そして手が温まってきたところでスケッチを始める。基本は楕円。これは曲線の組み合わせで全体を形作るカーデザインの考え方に合致します。カーデザインは曲線をいかに扱い、いかに魅力的な反射を実現するかが勝負所です。だからカーデザイナーのスケッチは曲線が魅力的で、その線は勢いがあります。一方で建築家のスケッチは直線の組み合わせがベースになっています。直線はフリーハンドで描こうとすると勢い良く描けません。だから建築家はわざと少しよれたような線で、比較的ゆっくりと直線もどきを描きます。その組み合わせでスケッチを描いていく。平行、直角、寸法。宮脇檀さんのスケッチなんかはその代表格です。山中さんのスケッチを見ていてその違いに初めて合点がいきました。

電機メーカーに勤める友人にも勧めた前書

そんな感じなので、山中さんの本は理系マインドを持った人であれば、デザインを仕事にしていない人であっても興味深く読めるはずです。実際、前書「デザインの骨格」を読んだ際には電機メーカーに勤める理系の友人に勧めたところ、見事にはまりました。

デザイン系の人、理系の人には特におすすめです。

 

評価:★★★★★(5段階評価)

 

デザインの小骨話

デザインの小骨話