とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「「賢くお金を使う人」がやっていること」大江英樹

日常生活で、行動経済学の観点から見て「これを知っておけばちょっと失敗を防げるのに」というような知識を優しい言葉でわかりやすくまとめた本です。

例えば「なぜ、映画館では途中で席を立つ人はいないのか」
映画は始まって30分も観ていれば面白いかどうかはわかる。なのに大抵の人は面白くないことに気づいても席を立つことなく最後まで見てしまう。チケット代が1800円とすると30分で席を立った場合の損失は「1800円+30分」なのに、最後まで我慢して観ると損失は「1800円+2時間」。戻ってこないサンクスコスト(埋没費用)に強いこだわりを持ってしまう人間の心理です。このエピソードは投資漫画「インベスターZ」でも主人公が損切ができる人間かどうかを判定されるときにも使われました。

「松竹梅」があると、つい「竹」を選ぶ心理も面白いです。「松」だと贅沢だし「梅」だとケチにみられるかも、と「竹」を選んでしまう。売る側はそこがわかって松竹梅を設定しているから、最も利益率が高いメニューを「竹」にしているはずだといいます。

行動経済学の視点から見ると、人間の経済的な判断は必ずしも合理的ではないことがわかっています。そんな認知の歪みを知っておけば、すこし合理的な判断に近づけるかもしれない。そして、世の中にはその歪みを狙って仕込まれたいろいろなトラップがあるということに思いが至ります。

感情と論理のすり替え

保険を感動ストーリーで売ること、それを真に受けてしまうことにも本書は警鐘を鳴らしています。ユーザーはなぜその保険が必要なのか、その商品がほかの商品と比べてどこが優れているかを保険会社は本来訴えるべきだし、ユーザーも知ろうとすべきなのに感情と論理のすり替えになってしまっています。

保険は不幸の宝くじ

ちなみに私は保険は「不幸の宝くじ」だと思っていて、宝くじ並みに胴元がピンハネしてしまうものが大半なので、よっぽどのことがないと入らないと決めています。その金があったら自分で運用して増やして備えたり、健康づくりや予防医療に使ったほうがよっぽどいい。保険会社の建物を見ると、予算も潤沢でどれも立派です。なかにはデザイン的にかなり優れたものもあります。でもそれを見るたびに、これだけの金額が保険料から建物に流れてしまうような保険会社の保険には絶対に入るまいと思いを強くするのでありました。

 

評価:★★★(5段階評価)

 

「賢くお金を使う人」がやっていること (王様文庫)

「賢くお金を使う人」がやっていること (王様文庫)