とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ

タイトルに偽りなし

若きイスラエル人歴史家による、その名の通り我々サピエンスの全史です。なぜ世界史でも人類史でもなくサピエンス全史なのか、読んでみて分かりました。この歴史書は我々を「サピエンス」という哺乳類の一種であると科学的な視点で位置付けた上で、その生物がどう他の動物と違うのか、そしてここまでの発展を遂げたのかを様々な学問分野を軽々と横断しながら解き明かしたものです。

 

しびれる冒頭文

冒頭の文章でまずしびれました。

 

 ”今からおよそ135億年前、いわゆる「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本をなすこれらの要素の物語を「物理学」という。
  物質とエネルギーは、この世に現れてから30万年ほど後に融合し始め、原子と呼ばれる複雑な構造体を成し、やがてその原子が融合して分子ができた。原子と分子とそれらの相互作用の物語を「化学」という。
 およそ38億年前、地球と呼ばれる惑星の上で特定の分子が結合し、格別大きく入り組んだ構造体を成し、すなわち有機体(生物)を形作った。有機体の物語を「生物学」という。
 そしておよそ7万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。”

 

こんなに鮮やかな学問分野の解説を初めて見た気がします。こんな授業を高校時代ぐらいに聞いていたらもっといろんな科目を有機的に関連付けて考えられたかもしれません。

 

虚構の力

著者はサピエンスがここまで社会的な生物として発展できたのは「虚構」を描き、共有することができたからだと言います。国家も資本主義も宗教も倫理も全てサピエンスの脳内で描かれた「虚構」でしかない。ただ、その虚構を描ける能力があったからこそ認知革命、農業革命、科学革命を起こし得た。目から鱗です。

虚構だから唯一の正解はなく、必要に応じて書き換えられていくのだと思うと、明治維新で急に欧米化した日本人の変わり身も、ビットコインのような根も葉もない新貨幣システムが急に市民権を得ていくのも納得できます。だからあまり自分たちが考える正義や倫理観も虚構に過ぎないものとして相対化できる視点を持つべきだと思いました。どこかで虚構に過ぎないと思っていないと、他の宗教が許せなくなったり、借金苦で自殺してしまったりするのではないかと。

 

数々のランキングで1位を獲得するのも納得の名著です。

 

評価;★★★★★(5段愛評価)

 

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

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サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

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