とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「都市は人なり 全記録」Chim↑Pom

チムポムが都市で遊んだ2つの展覧会の記録

アートユニット、チムポムが2016年に歌舞伎町の雑居ビルで行ったインスタレーション「また明日も観てくれるかな?」展と、2017年に高円寺のバラックで行なった「道が拓ける」展の文字どおり全記録です。
残念ながら「また明日も観てくれるかな?」を見逃し、実際に観たのは「道が拓ける」のみでしたが、この展覧会がなかなか面白かったので、買ってみました。
どちらの展覧会も共通しているのはオリンピックを前にスクラップアンドビルドが繰り返される東京のリアル、それもどちらかというと打ち捨てられるスクラップアンドの質感を感じさせるインスタレーションであることでしょうか。

 

「また明日も観てくれるかな?」

「また明日も〜」は歌舞伎町の雑居ビルの床をぶち抜いて、そのスラブでビル内の家具などを挟んでハンバーガー状の作品を作ったり、部屋丸ごと青焼きにしたり、そこに有名アーティストを呼んでハプニング的なパフォーマンスをしたり、歌舞伎町の猥雑さと相まったアウトローな魅力があります。

 

「道が拓ける」

「道が拓ける」はバラックと呼んでいいようなボロボロの建物を半ば破壊しつつ、増築しつつ、内部にパブリックな道を構築し、その周囲に作品をちりばめて回遊させるということをやっています。

 

意外と地道で大人な準備の上でのハチャメチャ

そのハチャメチャぶりは現代アート界のロックバンドといった風ですが、この本で語られる舞台裏を読むと、なかなか周到に、地道な準備をした上でのハチャメチャなのだと感心します。ただのやんちゃ坊主ではここまでのことはやっぱりできません。歌舞伎町の既存コミュニティとの地道な交流、警察との絶妙なやりとり、放棄に関する知識、「道が拓ける」は随分と建築的な作品だなと思っていたら周防貴之さんという元SANAAの若手建築家との共同作品でした。

カオスは計画できるか

ツルツルピカピカの大規模な都市開発の裏で打ち捨てられるカオスの魅力は、建築家の都市論でも語られますが、いざそれを設計しようとすると指の間からすりぬけるように逃げてしまい、なかなかそれを実現できている建築家はいません。カオスを増幅させようとするならば、ひょっとしたらチムポムのようなアート側からの直感的なアプローチ、構築と破壊、計画とハプニングが渾然と一体となったアプローチのほうが可能性があるのかもしれない。そんな予感を抱かせる本でした。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

 

都市は人なり 「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」全記録

都市は人なり 「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」全記録

 

 


 
 
 
 

「縮小ニッポンの衝撃」NHKスペシャル取材班

グラフを見るだけでも価値のある本

2008年をピークに減少に転じた日本の人口。それが何を意味するのかをまとめた新書です。4ページ目に掲載されている人口予測のグラフを見るだけでも価値のある本だと思います。

日本の経済成長は人口増のおかげだった

1868年の明治維新の時の人口が約3300万人、そこから2008年の12808万人まで日本の人口は急激に増えていることがわかります。爆発的と言ってもいいほどの激増です。このブログでも紹介したデービット・アトキンソンさんの著作でも日本の経済成長はものづくりの力より何よりこの人口増加によるものだと指摘されています。全てがこの右肩上がりの人口増加を前提として成り立っていました。

ジェットコースターのように転げ落ちる人口

それが2008年を境に反転します。まさに崖を転がり落ちるように人口が減っていきます。2100年には6000万人を切ると予測されています。あと80年で日本の人口は終戦前の人数まで激減します。ちょっと空恐ろしいほどのグラフです。

人口が減ると税収が減り、自治体のサービスが崩壊します。すでに人口の減少が激しい自治体の破綻が始まっています。本書で取り上げられているのは北海道・夕張市島根県雲南市益田市等。雨漏りする公共施設の補修もままならず、公務員の人数も収入も激減し、まさに地方が壊死していく様子が描かれています。そしてこの凄惨な状況がこれから日本中を虫食い状に襲っていくことがほぼ避けられない状況になっていることがよくわかります。

東京病患者のような状態

読んでいて壊死していく脚を生きるために切断せざるを得ない糖尿病患者を思い出しました。日本は残念ながらそこまで来てしまっています。。

コンパクトシティ

建築や都市計画の分野に引きつけて考えて見ると、コンパクトシティに向かわざるを得ないことが見えて来ます。広がった都市をいかにうまく剪定し、コンパクトにまとめながら撤退戦を行うかが今後の日本の都市計画のテーマになります。ポジティブに考えれば、都市が自然に還っていくとも捉えられます。

この状況に一個人としてどう対応するか

一市民としては、人口がこれだけ減っていく時代に不動産は投資対象として有望ではないので、なるべく土地は持たずに賃貸で生きていくほうが理にかなっていると再認識しました。また、日本が経済的に沈没していく可能性が高いので、投資信託の国内比率は低く抑えて、リスクを回避する方針も間違っていなさそうだと再認識しました。そして、もし自分に子供ができたら、この沈没していく国からいつでも脱出できる能力とフットワークの軽さを持った人間に育てようと思いました。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

 

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

 

 

「成功はゴミ箱の中に」レイ・クロック、ロバート・アンダーソン

柳井さんと孫さんが絶賛する男

マクドナルド創業者、レイ・クロックの自伝的ビジネス書です。序文をユニクロ柳井正さんが、あとがきをソフトバンク孫正義さんが書き、さらに柳井さんと孫さんの対談まで巻末に収められており、柳井さんに至ってはこの本をバイブルだとまで言っています。この二人がそんなにお勧めするならと手にとってみました。

柳井さんのロールモデル、レイ・クロック

ミキサーのセールスをやっていた52歳のレイクロックが、マクドナルドをチェーン化し、日々改善を重ねながら合理的なシステムを完成させ、世界のファストフード業界を席巻するまでの試行錯誤が描かれた本でした。フライドポテトの製造工程ひとつ取っても試行錯誤の連続で、温度湿度管理の方法、効率的に上げるための道具の開発、冷凍技術の導入、と様々なプロセスを経て日々改善がなされていったことがわかります。そうやって磨きに磨いたシステムを大々的な広告プロモーションとともに広めていく。その姿は確かにユニクロの成長物語とダブります。柳井さんはレイ・クロックをひとつのロールモデルとしながら、ユニクロのシステムを日々磨き、世界に広げようとしているのだということがこれを読むとわかる気がします。

ペーパーカップを売っていた頃

レイ・クロックはマクドナルドを操業する前に様々なビジネスを経験していますが、ペーパーカップのセールスをやっていた頃からビジネスの才能に溢れていたようです。ウォルグリーン・ドラッグ・カンパニーという会社にペーパーカップを売り込んだ時にはランチタイムにドリンクのテイクアウトサービスを行なえば、お店の売り上げもアップするはずだと説得を試み、なかなか話に乗ってこない責任者に「200個でも300個でもカバー付きカップを最初は無料で提供するから試してみてくれ」と言って、これが大当たり、無事に大口の受注を獲得するというシーンがあります。重要なのは、このアイデアがお店も、お客も、自分の会社もハッピーになるアイデアだということです。この調子でレイ・クロックは日々「三方良し」のアイデアを思いついては実行に移し、成果を上げていきます。その様子が読んでいて爽快です。

マインドフルネスの先駆者!?

第5章はストレスに打ち勝つ!と題された章です。
「この時期、問題に押しつぶされない方法を私は学んだ。一度にひとつのことしか悩まず、問題をずるずる引きずらない。
 毎晩眠りに就く前に、独自に開発した自己睡眠法を行なった。〜中略〜
 まず頭の中に黒板をイメージする。緊急のメッセージで埋め尽くされているが、黒板消しを持った手が、それらを端からきれいにしていく。頭の中をこれで空っぽにした。途中で雑念が生まれたら、大きくなる前に消し去った。次に、体をリラックスさせた。首の後ろから下がっていき、背中、肩、腕、足、そして指先まで。終わる頃には不快眠りについていた。慣れるに従って、一連の手順を短時間でできるようになっていった。〜秘訣は、一部の無駄もない、質の高い睡眠にあった。」

これは今流行りのマインドフルネスとか睡眠法そのものでしょう。1940年代頃にすでにそんなことを意識していたというのがちょっと驚きです。

 

読んでいたら今度はマクドナルドを日本に広めた藤田田さんの本も読んでみたくなってきました。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

 

 

 

「丹下健三と都市」豊川斎赫

最近の若手建築史家の中で丹下健三の研究でよく知られている人といえば豊川さんでしょう。

建築的不感症

建築の実務を初めて十数年、学生時代に比べると最新の建築雑誌を毎月食い入るように読み耽ることは少なくなりました。デザインのトレンドは5年、10年くらいのスパンで揺れ動いていきますが、それを表面的になぞっているだけの最新の建築作品をいくら見ても心踊らなくなってしまっています。建築不感症みたいな状態です。ほんとうに歴史を変えるような凄い作品というのは滅多に出るものじゃないという気分です。

やっぱり丹下健三はすごい

そんな中、学生時代はちょっと権威主義的でマッチョな発想がやや古く見えていた丹下さんが、やっぱり凄い、と最近よく思うようになりました。(何を今更、と言われそうですが。。。)それはやっぱり、建築から都市まで貫かれた思想や、モダニズムと日本の伝統の統合であるとか、意匠、構造、設備の高度な統合であるとか、もうあらゆる側面から見て考え抜かれた凄さだと思います。作品のすごさをレーダーチャートで示したら綺麗な5角形が出来そうな凄さです。

丹下シューレの裾野

本書は書き下ろしではなく、様々な学術誌に寄稿した文章を集めたものなので、各章の内容は比較的バラバラですが、丹下健三本人に関することからその弟子にあたる黒川紀章磯崎新といった建築家への論考も含まれていて、丹下シューレの裾野の広さを感じさせます。

今、岸田日出刀がいたら

新国立競技場の建設が進んでいますが、日本的悪しき無責任民主主義の成れの果てといった感じのこれまでの顛末を見ていると、代々木体育館を作れた日本人のリーダーシップはどこへいってしまったんだろうと思います。丹下さんの後見人的ポジションの岸田日出刀のようなリーダーが「俺の責任でやる」と言って腹を括って進めたほうが良いものができる気がするんですけどね。

 

評価:★★★(5段階評価)

 

丹下健三と都市(SD選書269)

丹下健三と都市(SD選書269)

 

 

 

「理系脳で考える」成毛眞

元日本マイクロソフト社長の成毛さんの本です。これからは理系脳の持ち主だけが生き残る時代だということで、理系脳の4条件を提示しています。

①新しいものに興味がある

②刹那主義で未来志向

③コミットの範囲が明確

④コミュニケーションが合理的

読んでいると、ホリエモンが著書で主張している内容ともよく似ています。私はアラフォーですが、若い頃は新しいものに飛びつくことが安易に流行に流されるような気がして、苦手なところがありました。ただ、最近は意識して新しいものに飛びついていかないと、気づくとどんどん保守的になりかねない年齢になってきたなと思うことがあります。新しいものに対するアンテナを張って、柔軟に対応していく。①、②はつまり、頭が若いと言い換えても良い気がします。③、④はエネルギーを自分が夢中になっていることに集中投下するということでしょうか。

理系脳の持ち主として挙げられたのは

イーロン・マスク

ジェフ・ベゾス

マーク・ザッカーバーグ

北野武

習近平

豊臣秀吉

自分の頭で論理的にものを考えるから、新しいことができたり、時代を変えるようなことができるんだろうなぁと思わせられる顔ぶれです。

理系脳を育てるためのライフスタイルもいくつか紹介されていますが、その中には「最新スマホを使い続ける」なんていうのもあります。最新スマホでしか使えない機能が日々進化しているから、というのがその理由のようです。ちなみに私は中古のiPhone格安SIMのチップを指して使っています(笑)自分の中ではそれが一番安上がりでかつデザインも昨日も納得できるレベルが手に入る、と理系的に考えて判断したつもりなんですけど。。。最新のiPhone高いよ。

 

評価:★★★(五段階評価)

 

 

理系脳で考える AI時代に生き残る人の条件 (朝日新書)

理系脳で考える AI時代に生き残る人の条件 (朝日新書)

 

 

「笑福亭鶴瓶論」戸部田 誠

笑福亭鶴瓶さんがどんな芸人であるかをそのデビューの頃から掘り下げて分析した新書です。本書で取り上げられる鶴瓶さんの特徴をいくつかかいつまんでみると、

・人見知り、時間見知り、場所見知りしない

・最高の状態でナメさせる男

・落語家のイメージを壊したいという反骨精神のアフロヘアー

・趣味は嫁

などなど、確かにと思ったりなる程と思わせるエピソードがてんこ盛りです。特にこの「人見知り、時間見知り、場所見知りしない」というのは「家族に乾杯」などの番組でも遺憾無く発揮されていて、タモリさんが地理や歴史に注目するのと対照的に一般の人たちの面白さにフォーカスし、さっと懐に入り込んでいく様が語られます。そんなキャラクターが縁を呼びさらにまた縁を呼び、時に奇跡的なエピソードが生まれたり、面白いできことが起きたりします。セレンディピティってこういうことをいうのかな、という気がします。

私はどちらかというとパッと初対面の人の懐に飛び込むのは苦手なので、こういう才能には憧れがあります。たけし、タモリ、さんま、鶴瓶、みんな全くタイプは違うキャラクターです。オープンなタイプもいれば普段は無口な人もいます。正解はないのでしょうが、あえて若手にも突っ込みやすいスキを与えていじらせる、というような人心掌握術みたいなものがあるのだとすれば、お笑い芸人に限らず普通の会社員、とくに部下を持つような世代の人達にも参考になるところがあるようにも思えます。

 

評価:★★★(五段階評価)

 

 

笑福亭鶴瓶論 (新潮新書)

笑福亭鶴瓶論 (新潮新書)

 

 

 

「超・戦略的作家デビューマニュアル」五十嵐貴久

本当に具体的

作家になるための方法が本当に具体的に書いてあります、この本。毎年発表される芥川賞のニュースを観ていると、普通のサラリーマンや、引きこもりや、コンビニ店員をしながら小説を書き、受賞して一躍時の人になる姿に「自分でも何か書いてみようか」と思う人もいるのではないでしょうか。文体やら、構成やらそういう技術的なマニュアルではありません。この本に書いているのは作家になる「方法」です。

 

出版社が主催する長編小説の新人賞のミステリー部門に応募するのがベスト

作家になるための方法は自費出版、ネットを通じての出版、コネを使っての作家デビュー、持ち込み、などもありますが、最も確率が高いのは新人賞を獲る、だそうです。これが最も現実的な方法だと言います。

では、どんな賞に応募すれば良いのか。それはズバリ「出版社が主催する新人賞」。例えば自治体が主催する新人賞は、賞をあげてしまえば終わりで、そもそも出版させようとか、作家を継続的にフォローして育てようという体制にない。一方出版社の主催する新人賞はそれで売れる作家を発掘し、売上につなげようという企業としてのスタンスがあるので、作家になりたいなら「出版社が主催する新人賞」への応募が最短ルートなのです。それも書籍になるだけのボリュームを備えた「長編小説」の新人賞です。

次にジャンル。賞が扱うジャンルとして多い「ミステリー」が有利だそうです。思えば戦略的に物を考えるタイプの作家、森博嗣さんもミステリーのメフィスト賞かなにかを受賞されて作家になられていたような気がします。

本書の中には具体的に著者が推奨する出版社主催の新人賞がいくつも紹介されています。

 

実は求められる常識

応募にあたっては当たり前ですが応募要項をきちんと読んでそれを守り、推敲して誤字脱字も直し、きちんと仕事のできる常識人であることを出版社の社員に理解してもらうことも重要だと言います。

 

こうしてみると何だか自分にもできそうな気がしてきます。ただ、新書でこういう本が発売されるということはそれだけ潜在的な作家志望者が沢山いるわけで、競争率も凄そうですけどね。

 

評価:★★★(5段階評価)