とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「教養としてのテクノロジー」伊藤穣一

MITメディアラボ所長の伊藤穣一さんの新書です。前作「9プリンシプルズ」は立ち読みしただけですが、文章がかなりとっつきづらい印象でした。それからすると本書は相当に読みやすく書かれている印象です。内容としてはテクノロジーが社会の変化とどうシンクロしていくかということを様々な切り口から解説したものとなっています。

第1章 「AI」は「労働」をどう変えるのか
意外な感じがしますが、Googleフェイスブックに代表されるシリコンバレーの「スケールイズエブリシング」な考え方や、シンギュラリティに対する感情な期待を疑問視しているようです。そしてベーシックインカムに言及される時代に、労働は「自分の生き方の価値を高めるためにどう行うか」が問われる時代になるといいます。この辺りの主張は昨今のIT界隈の人たちの主張とも共通しているように思います。

第2章 「仮想通貨」は「国家」をどう変えるのか
著者は90年代から仮想通貨の構想に関わっていたようですが、ICO(イニシャルコインオファリング)と呼ばれる仮想通貨でスタートップ企業の資金集めの手法に注目しているようです。インチキなICOも出てくる中で利害関係のない唯一の組織であるメディアラボが果たす役割は大きいのだといいます。国家が管理しない通貨を一体誰がどのように管理するのか、今後の動向に注目です。


第3章 「ブロックチェーン」は「資本主義」をどう変えるのか
ブロックチェーンによってどこかの中心が全体を統御するシステムではなく、部分が自立するネットワークによって経済が管理されるようになり、通貨も多様化するといいます。そして従来の概念でお金に変換されなかった価値の評価方法が重要になるといいます。

第4章 「人間」はどう変わるか?
この章では都市にも言及しています。人が歩いて回れるペデストリアンシティの概念、自動運転によるモビリティの変化、インディジネスピープルと呼ばれるその土地に昔から住んでいる民族の知恵を活かした都市の作り方、等興味深いフレーズが出てきます。

第5章 「教育」はどう変わるか?
「アンスクーリング」と呼ばれる学校教育に頼らない教育法について言及しています。単純作業や、正確さだけを求める労働や、知識量を求める仕事などがどんどんAIに置き換えられる時代にあっては、自主性のある人間を育てることが重要になるという教育法のようです。一歩間違うと教育放棄になりかねないなかなか過激な方法な気がしますが、従順な労働ロボット養成教育な側面の強い日本の教育もそれくらい自主性に振った方が良さそうな気がします。

第6章 「日本人」はどう変わるべきか?
一般人の生活に対するこだわりが低い、ロジカルな議論ができない、意思決定のプロセスに時間をかけすぎる、空気が人を動かす、ロボットへの親和性が高い、というような日本を外から眺める著者ならではの日本人分析はなかなか面白いです。やはりそうか、と思わされます。

第7章 「日本」はムーブメントを起こせるのか?
ヒッピーカルチャーなどのように新しい時代のムーブメントはファッションと結びついて楽しいものだったからこそ影響を持ちえたのだといいます。私も大学生の頃、エコロジーについての小論を授業で書かされた時に「エコをファッション化せよ」というタイトルでおんなじようなことを書いた記憶があります。正しいことを正しく伝えるだけでは人は動かない。カッコいい、楽しい、とセットでなかれば人は動かないし、逆に結びついてムーブメントになるとものすごい勢いで若者は動くし、それで時代は変わる気がします。

とまあ、最先端の場を運営する著者がパッパと引き出すトピックを追っていくと、時代の輪郭がぼんやり浮かび上がっていくというような本です。

評価:★★★(五段階評価)