「集中力はいらない」森博嗣
異能の人
森博嗣さんは小説家ですが、実は森さんの小説を読んだことはありません。読んだことがあるのはエッセイ系の本ばかりです。森さんは実は名古屋大学の建築の先生です。デザインではなく、エンジニアリング系の専門家です。著作を読むと思考方法が独特で、ちょっと異能の人という感じです。
集中力の定義が違う
この本もまさにその路線の本で、タイトルは編集者がつけたものかもしれませんが「集中力はいらない」というちょっと扇情的なものです。ただ、読んでみて思うのは森さんも小説を書いている時や工作をしている時は相当に集中しています。「集中力」という言葉の定義がちょっと違うようなのです。彼のいう集中力というのは「機械のように1つのことを延々とやり続ける力」ということのようなのです。そこを間違うと彼の本来の主張を誤解してしまう気がします。
気が向いたことをやるというテクニック
で、彼は自分はそういう意味での集中力(というか持続力)は無いから、小説に飽きたら工作をしたり、土を掘ったり、気まぐれに色んなことをやるといいます。でも実はそれは、耐えず何かに集中している状態を維持するテクニックです。その時気分が乗っていることをやる。
キャリアが複線化する時代
前回の書評でキャリアの複線化、多動力、農民化みたいなことを書きましたが、どうもリンクしているような気がしてきました。色んなことを気が向いた時にあれこれ手を出す状態は実は多分野に細切れに集中している状態なのだとすると、キャリアが複線化した時代の心の持ちようとして1つの理想かもしれません。
理系の発想
森さんは小説は金を稼ぐためにやっているだけだと言いますが、世の中にはもっと効率よくお金を稼ぐ方法なんていくらでもあるし、きっと好きに違いありません。世の中の通念とか常識を疑わずに受け入れることに我慢ならない人なのだと思います。理系なので、論理的に自分の頭で考える。その過程になるべく通念とか常識とかいう「雑念」を挟まないように心がけてきた結果かもしれません。そんな論理的思考の果てにたどり着いたところが、世の中の通念とか常識とずれていたりすることがあるので異能に見えるけれども、論理的に破綻しているのは常識や通念の方かもしれない。
そんなことを考えさせられる一冊でした。
評価:★★★(5段階評価)