「新・生産性立国論」デービッド・アトキンソン
「新・観光立国論」「新・所得倍増論」に続く「新・生産性立国論」。ゴールドマンサックス仕込みの徹底的なデータ収集と分析に基づく提言は今回も切れ味抜群です。
徹底的にロジカルな論運びなので、章立ても明快です。
第1章 人口減少は「生産性」向上でしか補えない
第2章 「生産性」を正しく理解し目標を立てよう
第3章 「高品質・低価格」という妄想が日本を滅ぼす
第4章 「女性」をどうにかしないと生産性は上がらない
第5章 奇跡的に「無能」な日本の経営者たち
第6章 国がとるべき「3つの生産性向上策」
第7章 企業が生産性を上げるための「5つのドライバー」と「12のステップ」
次から次へと出てくる日本の悲観的データ
読んでいると次から次へと出てくる悲観的なデータ。日本はいかに生産性が低いか。人口減でヤバい状況か。どれほど女性が活躍できていないか。経営者が無能か。
日本の現状を正しく、正確に理解するためにこれでもかと厳しいデータが突き付けられます。途中「もうわかったから許して」と言いたくなるほどです。しかし、太平洋戦争末期の日本がそうだったように、いらぬプライドが現実を正しく見る目を曇らせます。目を開いて虚心坦懐にこの現実を見てからスタートするほかないと思わさせる強いメッセージが続きます。
結論の6章と7章で述べられたのは下記の提言です。
国がとるべき3つの生産性向上策
①企業数の削減
生産性の低い中小企業は下手に守らず健全な淘汰に任せたほうが良い。
②最低賃金の段階的引き上げ
最低賃金と生産性は相関関係にある。今の日本の最低賃金は世界的に見て異常に低
い。そして生産性も低い。
③女性の活躍
ロボットや移民で労働力不足は補いきれない。世界的に見て低すぎる女性の生産性を
上げる必要がある。
生産性向上のための12のステップ
①リーダーシップ
まずは経営者が生産性向上にコミットすることが重要。
②社員一人一人の協力を得る
経営者が示したビジョンに社員が共感。
③継続的な社員研修の徹底
役職が低い人の研修だけでなく高い役職に対する研修のほうが重要。
④組織の変更
組織は時代に合わせて絶えずバージョンアップ。
⑤生産性向上のための新しい技術に投資
新しい技術や機械に投資し、生産性を図る。
⑥生産性目標の設定と進捗
経費削減、人件費削減という小手先の対策ではなく、本質的な生産性向上が重要。
⑦セールスやマーケティングも巻き込む
特に製造業はエンジニアの意見が強すぎるために「ガラパゴス現象」を起こしがち。
市場の意見に耳を傾けるべし。
⑧コアプロセスの改善
主たるビジネスプロセスの継続的な改善が重要。
⑩生産性向上の進捗を徹底的に追及する
⑪効率よく実行する
⑫報・連・相談の徹底
こうしてみると12のステップは特別目新しい内容ではありません。本書で追及されている生産性は、個人で朝方シフトの働き方にするとか会議の時間を短くするとかいうハウツーレベルの生産性ではなくて、、もっと高所に立って大局から見た企業の国家の生産性です。日本の経営者や政治家にも是非読んでほしい内容でした。
評価:★★★★★(五段階評価)