とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「未来予測の技法」佐藤航陽

「お金2.0」で大ヒットを飛ばしている佐藤航陽さんの本を遡ってみたいと思い、買ってみました。

佐藤さんの予測によるとまず、「国家の重要度が低下する」。その予測のスタートは「国土の重要度が低下するから」。なぜか。それは農業や工業の時代は国土が生産能力と直結していたから。ところが今は産業の中心が農業でも工業でもなく情報に移ってきている。情報は国土に依存しないから国土の重要性が低下する。また、権力も国家から企業に移りつつある。これからはgooglefacebookといった多国籍企業(分散型の権力)と国家(ハブ型の権力)の綱引きの時代になる。

このような調子で佐藤さんの予測は歴史的な経緯と物事の因果関係を明確にとらえているので説得力があります。思考は高度ですが、言葉は平易です。

その未来予測のカギは「パターン」にあるといいます。テクノロジーがどのように進歩していくのか、テクノロジーが進歩すると政治や経済のシステムがどのように動いていくか、そこにはパターンがあるようだ、と。実際に佐藤さんが経営する会社でもゲームのユーザーの行動を解析すると限られたパターンが見えてきているそうです。

また、自社のアプリ開発androidに特化するという経営判断をした際には、かつてのmac垂直統合型)とウインドウズ(水平分業型)のバトルにウインドウズが勝利した歴史からパターンを読み取り、水平分業型が勝利すると予測したようです。パターンとはつまり歴史から学ぶこととも言い換えられるかもしれません。

彼はテクノロジーの進歩と社会の変化に潜むパターンを9つ紹介しています。

①あらゆるもののエントロピーは増加する。
 テクノロジーも時間の経過とともにシンプルなものから複雑化していき、部屋を飛び出し、多方面へ浸食を繰り返していく性質がある。(例えば電話など)

②あらゆるものに知性が宿る

 あらゆるところにセンサーが付き、やがてセンサーは知能がやどり人間の意思決定を抄訳していく。(IOT、ディープラーニング、自動運転等)

③ネットワークはピラミッド型から始まり、ハブ型、そして分散型へ

社会システムも封建社会(ピラミッド型)→近代社会(ハブ型)→現代社会(分散型)と変化しています。貨幣システムだってそうかもしれません。

④テクノロジーは人間を拡張する
手の拡張として斧などの道具が作られ、動力(足)の拡張として電力が開発され、脳の拡張として本が生まれました。でもこられのテクノロジーは人間の脅威とはならずに、人間の再定義迫ったという歴史(パターン)から推察するに、AIは人間の脅威ではなく人類の再定義をせまることになるはず。

⑤テクノロジーは私たちを教育し始める

貨幣は道具だったはずが、世界認識そのものを変え、貨幣によって数値化させることで人間は世界を学ぶようになった。

⑥テクノロジーは掌から宇宙へとひろがっていく

IT企業はまさに今宇宙に投資を始めています。イーロンマスクもロケットを打ち上げているし、ホリエモンもロケットを飛ばそうとしています。

⑦テクノロジーは境界線を溶かしていく

国家と企業の境界線、社内と社外の境界線、自分と他人の境界線が薄れつつあります。

⑧テクノロジーはすべてを無料に近づける

グーグルのサービスが進化すると企業によるベーシックインカムが実現するかもしれない。

⑨テクノロジーが出した答えを理解できなくなる

将棋や囲碁の解説者が定石からはずれたAIの手の意味を理解できないのもこれかもしれません。

あらためて書評を読んでいて思いましたが、一見逆説的なようですが未来を知りたければ歴史を学ばなければいけないですね。歴史をなぜ学ぶかというと、そこに人間や社会の動きのパターンを学べば未来予測の精度が上がるからです。

ビジネスマンでも人の上に立つ人は歴史ものをよく読んでいると聞きます。優秀なアーティストや建築家も歴史の造詣が深い人が明らかに多いと思います。過去を知り、パターンを知っているからこそ、ある確信をもって未来を描けるのかもしれない。そんなことを感じさせる一冊でした。

評価:★★★★(五段階評価)