とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「学力の経済学」中室牧子

教育本は玉石混交

子供の教育に関する本には本当に様々な教育法が書かれています。やれホメて伸ばせ打、いや3歳までは厳しくしつけるべきだ、英語は早く教えるほうがいいだ、いや、まずは日本語が大事だ、等々。それらの論には著者の数少ない経験に基づいているものもあれば、相当エビデンスが怪しいものもあります。

データに基づいて教育効果を分析

本書はとにかく、いったん正しくデータを集めて、正しく分析して、どんな教育がどんな効果を上げているのかを正しく把握しようというスタンスで書かれています。

相関関係と因果関係は違う

例えば「読書をする子供は学力が高い」というデータがあったとして、そこに示されているのは相関関係だけであって、読書が学力を高めているのか本当のところはわかりません。実は本を子供に多く買い与える親は、子供に勉強を促すことが多いために子供の学力が高いのだとしたら、学力に直接影響しているのは「勉強を促すこと」だということになります。これはニュースや広告の売り文句を鵜呑みにせず、自分の頭で考えるときにも必要な視点のような気がします。「相関関係と因果関係は違う」そのことを頭において冷静に考えないと、誤解したり騙されたりしてしまいます。

で、結局分析して何がわかったのか

実はこの本の主眼は、そういった「データの収集と正しい分析に基づいて教育行政を考えていくという視点が今の日本には欠けている」ということなので、分析の結果そのものを主張しようとしているわけでは必ずしもないのですが、子供を持つ予定の身としては分析結果が気になります。

・東大生の親の平均年収は約「1000万円」
・「テストでいい点を取ったらご褒美」よりも「本を読んだらご褒美」の方が子供には効果的
・「頭がいいのね」よりも「よく頑張ったね」とほめるほうが効果的
・テレビやゲームをやめさせても学習時間はほとんど増えない
・「勉強しなさい」はエネルギーの無駄遣い
・学力の高い友達に囲まれていると学力が上がる
 (ただし、優秀な友達にいい影響を受けるのは上位者のみ)
・最も収益率が高いのは幼児教育
・非認知能力「自制心」「やりぬく力」の高い子供は大人になってから成功する確率が高い
・少人数学級は費用対効果が低い
・いい先生に出会うと人生が変わる(教員免許は教員の質を保証しない)

等々。これを読む限り、やはり幼児教育の重要性が高いことがわかります。それも単に勉強ができるようにするだけではなく、非認知能力を高めることが重要とのことです。部活や生徒会、課外活動なども積極的にやらせる。そして、良い先生や友人に会える環境を探してあげることが大事そうです。

また、今の日本の教育行政がデータの収集、分析、公開に遅れを取っているのであれば早々に改善してもらいたいと思いました。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学