とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「ユニクロ潜入一年」横田増生

渾身のルポ

ユニクロの実態に迫るためになんと1年以上ユニクロで実際に働くという渾身のルポタージュです。

物語は2011年に「ユニクロ帝国の光と影」という本を出版した著者が、合法的に名前を変えてユニクロに勤め取材を続けるも、2016年末に文春に書いた記事が発覚し、ユニクロから懲戒解雇されるシーンからスタートします。

柳井社長の言葉が著者に火を付けた

前著「ユニクロ帝国の光と影」を出版した文春は、ユニクロから出版差し止めと二億円の損害賠償を求めて訴えられるも、2014年に裁判に勝っています。以降、ユニクロは横田氏からの取材を拒否し続け、柳井社長はあるインタビューで「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかぜひ体験してもらいたいですね」と発言。これが著者に火を付けました。

現場で見えてきたもの

潜入取材はイオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店に及びました。そこで見えてくるのはたしかにかなりハードな現場の状況と柳井社長の強烈なトップダウン。横行するサービス残業、疲弊する現場。海外の下請け工場も劣悪な労働環境がNGOによって報告されています。そしてそれらの実情に対してユニクロは真摯に対応していないといいます。

圧倒的リアリティ

ユニクロのように本部が作った巨大なシステムをマニュアル通りにオペレーションしていく現場なんて、ファストファッションだって飲食店だってどこもこんな感じだろうと思っていたので、特にびっくりすくことはなかったですが、やはり現場に潜入しているというリアリティはかなりのものです。

昔は田舎のロードサイドショップだったのに

中学生のころ、ユニクロはまだロードサイドの倉庫のような店構えの安売り店というイメージでした。ユニクロを着ているとちょっとバカにされる感じすらありました。それがあれよあれよという間に銀座に出店し、フリースでヒットを飛ばし、ロゴマークも店舗デザインも、CMもすべてがスタイリッシュに洗練られていき、気が付けば世界的なファストファッションブランドになってしまいました。柳井社長のその手腕は広く評価されているところです。私もインナーが中心ですがユニクロは良く着ます。が、この本を読むと自分もブラック企業を作った一人なのかもしれないと思えています。

我々ユーザーは安くて高品質な商品が売っていれば買いたいと思う

この本を労働者をこき使うブラック企業の経営者の物語だとだけ捉えるのは少し短絡的かもしれないなと思います。我々ユーザーは安くて高品質な商品が売っていれば買いたいと思うし、それを実現するには企業は血のにじむような努力をします。企業とは何のためにあるのか、資本主義は誰を幸せにして、誰を不幸にしているのか、そんなことを広く考える一つの材料になりました。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

 

 

 

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)