とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「なぜ中国人は財布を持たないのか」中島恵

中国に詳しいフリージャーナリストの中島恵氏の新書です。

今年出張で見たシェアサイクルだらけの中国・厦門
先日仕事で中国の青島と厦門に行ってきました。どちらも行くたびに新しい住宅や超高層のオフィスビルが次々に建設されていて、中国経済の勢いを感じます。中でも特に今回印象的だったのは厦門の街を席巻するシェアサイクルの姿でした。ほんの2,3年前には全く見なかった光景が広がっている。その変化の内情をもう少し正確に知りたいと思って本書を手に取りました。

急激なスマホ決済の普及
仕事で行くと街中で自分のお金を使う機会が少ないので気づきませんでしたが、本書によると中国は現金の使用が日常生活でも激減し、スマホ決済が中心になってきているようです。そしてその変化は中国の偽札問題なども背景にあったといいます。インフラの遅れの問題もあった。それらの遅れがかえってスマホ決済への急激な移行を促したという側面があるようです。これまで遅れていた社会に、最新の技術やサービスが一足飛びに普及する「かえる跳び現象」です。

不信社会が生んだ芝麻信用というシステム
中国はこれまで「騙されたやつが悪い」という不信社会の側面がありました。中国のネット企業、アリババが提供する決済システム「アリペイ」そこでは人の信用度をビッグデータで評価していく「芝麻(ゴマ)信用」という格付けの仕組みがあるようです。例えばシェアサイクルをきちんと返さないだとか、交通違反をしていないかとか、そういう日ごろの行いが評価され、評価が低いとローンが借りにくくなったり、就職活動で不利になったり、婚活に影響したりする。画期的なシステムです。評価のためにマナーに気を付けるというのはちょっと現金な感じもしますが、中国の文化にはマッチしているということなのでしょう。

脱・ステレオタイプ化された中国人観
このほかにも中国の情報統制の実情や、爆買いのメンタリティーからより洗練されたセンスを手に入れつつある人々の様子、稲盛和夫の教えに涙を流す起業家の姿などなど、テレビで報道されるステレオタイプの中国人とは一味違った筆者が足で稼いだ中国のリアルが記されていて興味深いです。

「中国人=爆買い、マナーが悪い、偽物をすぐ作る」テレビはすぐそういう姿ばかり報道し、我々はそれを見てつい中国を理解した気になってしまいますが、実際にはあれだけの国民がいて、あれだけの国土の広がりがあって、経済レベルも様々ならメンタリティーも様々です。そこは一度先入観を取っ払って見る必要があるように思います。

日々変化する中国
実際、今年中国に行った際にも、運転手に時間がないから急いでくれと言っても、交通違反の取り締まりを恐れて高速道路の制限速度を決してオーバーしようとはしませんでした。日々中国も変化しています。

評価:★★★★(5段階評価)