「横丁の引力」三浦展
横丁フィールドワークの成果
吉祥寺のハモニカ横丁、新宿ゴールデン街等、東京に残る横丁のフィールドワークを通じて現代の都市と人々の指向をあぶりだした著作です。
ソフトとハードの両面から都市に迫る
三浦さんは都市をソフトとハードの両面から読み解く分析が魅力です。建築家や都市計画家の視点はどうしてもハードに偏る傾向があって、5年10年スパンくらいで移り変わっていく文化的トレンドと都市との関係までなかなか踏み込めません。
マッチョ的志向から非マッチョ的志向へ
三浦さんのほかの著作でも共通するのは人々がこれまでの物質的な豊かさを求めるマッチョな発想から、より非物質的な豊かさ、例えばコミュニティだとかすでにある古いものへの視点だとかそういうものにシフトしてきてるとの洞察です。ピカピカの超高層オフィスや湾岸のタワーマンション的な価値観に対しての「横丁」的価値観。
若い女性も横丁に集まる時代
これまでピカピカの世界観にあこがれると思われていた若い女性も今や「横丁」的価値観に共感するようになってきている。これからの都市を考えるうえでも「横丁」的価値観を再評価する必要がある。そういうスタンスです。
最近、自宅の近くにある「ハモニカ三鷹」という施設がリニューアルしました。リニューアルの設計を託されたのは建築家の隈研吾さん。ハモニカ三鷹は吉祥寺のハモニカ横丁でハモニカキッチンなどを経営する経営者が三鷹でビルの1階を「横丁」的価値観で開発した飲食店です。外観は自転車のホイール(廃品)を大量にぶら下げたという斬新なもの。インテリアにも廃品がうまく活かされ、低コストであることを逆手に取った横丁的空間がうまく作られています。
隈さんのトークショーでも見かけた本書
そこで隈さんのトークショーが開かれたので見に行ってきたのですが、観客に交じって後ろのほうに三浦さんの姿が見えました。トークショー終了後、立食パーティーだったのですが、僕は隈さんよりもむしろ三浦さんと話したいくらいだったのですが、声をかけようか迷っているうちに三浦さんは足早に会場を後にされておりました。
ハモニカシリーズの理論的バックボーン?
それはいいとして、トークショーを行う隈さんの目の前に置かれたテーブルにはこの「横丁の引力」が置かれていました。この本の巻末では三浦さんと隈さんの対談がありますが、基本的に二人の都市感は共通するところがあり、結果的にこの本は隈さんの一連のハモニカシリーズの設計の理論的バックボーンになっているとも読めます。
横丁は設計できるか
横丁的魅力を建築家は人工的に作り出すことができるのか。シズル感のある空間を建築家は設計できるのか。そんな問題意識を掻き立てられる良書です。
評価:★★★★(五段階評価)