とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「住宅」安藤忠雄

安藤忠雄が住宅について自作を通じて語った本です。安藤さんは巨匠建築家となった今もコンスタントに住宅の設計を続けているといいます。

割りに合わない住宅の設計

建築の設計料というのは総工費に対するパーセンテージで決まることが多いのですが、設計の手間は建築物の規模に必ずしも比例するわけではないので、住宅の設計というのはビジネスとして考えると決して割りの良いものではありません。そのため、若い頃は住宅を設計していても、巨匠になると大規模な建築物の設計が中心となり、あまり住宅の設計はしなくなります。

巨匠建築家で住宅の物件が突出して多いことで知られているのがフランクロイドライトですが、二川幸夫さん曰く、安藤さんはそれに次ぐ住宅の物件数の多さではないかと。

住まうとは何か

ではさぞかし安藤さんの建築は高気密高断熱で機能的なのかというと、いわゆる狭義の「住みごごち」で言えば大手ハウスメーカーの住宅に軍配があがるかもしれません。有名な住吉の長屋は中庭を経由しないと隣の部屋に行けません。そこでは建築と自然の関係のあり方そのものの問い直す試みがなされています。ハウスメーカーの住宅と住吉の長屋でどちらが季節を感じられるか。また、極小の敷地の中で絶えず中庭を借景として取り込めるプランは見方を変えれば住戸の周りにチンケな庭を取り、それらがそれぞれの部屋からしか見えない通常の住宅よりも効率的かもしれません。

そんな問いかけが潜んでいることも安藤建築の魅力の1つです。

打放しコンクリート

安藤建築のわかりやすい特徴は何と言ってもコンクリート打放しです。石やタイルや壁紙などを張らず、構造体であるコンクリートが内部にも室内にも露出している作り方です。素材が徹底的に少ないので、ディテールがシンプルになり、幾何学の構成がより明確に表現されるのが特徴です。海外ではこの削ぎ落としていく美学が日本的であるとも評されます。

私の打放し体験

私も2件ほど打放しのマンションに住んだことがありますが、冬は壁づたいにコールドドラフトと呼ばれる冷気が降りてきます。ベッドを壁際に置いて寝ていると、コールドドラフトを体感できます。はっきり言って寒い。でも、今まで住んだ賃貸住宅の中で特に気に入っているのがこの打放しの2件でした。打放しなら何でもOKでは無いですが、ある意志を持ってデザインされていて、それで得られるものが大きければその魅力が欠点を補って有り余るということかもしれません。

国立新美術館では安藤忠雄展が始まりました。ぜひ見に行こうと思っています。

 

評価:★★★★(5段階評価)

 

安藤忠雄 住宅

安藤忠雄 住宅