「書庫を建てる」松原隆一郎 堀部安嗣
社会経済学者の松原隆一郎さんが建築家の堀部安嗣さんに書庫の設計を依頼し、完成するまでの経緯をまとめた共著です。
ヒューマンスケールの建築を丁寧に丁寧に
堀部安嗣さんはTOTOのギャラリー間で開催された個展を見て以来、興味を持っている建築家です。堀部さんの作品は決して奇をてらわず、住宅を中心とした比較的ミューマンなスケールの建築を丁寧に丁寧に設計していくタイプの建築家です。日本の建築界でいうと吉村順三、中村好文といった建築家もこの系譜に当たるかもしれません。
書架の設計依頼
松原さんは書庫に松原家の仏壇を設置するという機能を併せ持つよう書庫の設計を、すでに自宅の設計を依頼したことのある堀部さんに依頼します。敷地探しから始まるこの作業が竣工を迎えるまでの堀部さんの真摯な格闘には感心します。たどり着いた案はコンクリートの塊を円筒形にくり抜いて作ったような書庫。ドームの頂点に穿たれたトップライトから注ぐ光には崇高さも感じます。
ディテールまで丁寧に
階段の手すり、踏板のディテールまで丁寧に検討し、職人ともやりとりしながら凄い精度で作っていく。私は日頃何万平米、何十万平米という巨大なビルの設計にかかわることが多いので、そういう設計の時間のかけ方がなかなか叶わないこともあり、憧れを感じます。(能力の問題かもしれませんが)
近所の堀部建築
実は私の自宅の近所にも堀部さんが設計された住宅があります。どこかルイス・カーンの住宅のような佇まいのその住宅には緑道の緑を生け捕りにするような大開口が巧妙に設けられ、駐車スペースには古いサーブが停まっていて、それだけで街並みのグレードが1ランク上がるような建築です。
丁寧に、実直に仕事をすることの大切さを感じる、そんな本でした。
評価:★★★★(5段階評価)