「丹下健三と都市」豊川斎赫
最近の若手建築史家の中で丹下健三の研究でよく知られている人といえば豊川さんでしょう。
建築的不感症
建築の実務を初めて十数年、学生時代に比べると最新の建築雑誌を毎月食い入るように読み耽ることは少なくなりました。デザインのトレンドは5年、10年くらいのスパンで揺れ動いていきますが、それを表面的になぞっているだけの最新の建築作品をいくら見ても心踊らなくなってしまっています。建築不感症みたいな状態です。ほんとうに歴史を変えるような凄い作品というのは滅多に出るものじゃないという気分です。
やっぱり丹下健三はすごい
そんな中、学生時代はちょっと権威主義的でマッチョな発想がやや古く見えていた丹下さんが、やっぱり凄い、と最近よく思うようになりました。(何を今更、と言われそうですが。。。)それはやっぱり、建築から都市まで貫かれた思想や、モダニズムと日本の伝統の統合であるとか、意匠、構造、設備の高度な統合であるとか、もうあらゆる側面から見て考え抜かれた凄さだと思います。作品のすごさをレーダーチャートで示したら綺麗な5角形が出来そうな凄さです。
丹下シューレの裾野
本書は書き下ろしではなく、様々な学術誌に寄稿した文章を集めたものなので、各章の内容は比較的バラバラですが、丹下健三本人に関することからその弟子にあたる黒川紀章、磯崎新といった建築家への論考も含まれていて、丹下シューレの裾野の広さを感じさせます。
今、岸田日出刀がいたら
新国立競技場の建設が進んでいますが、日本的悪しき無責任民主主義の成れの果てといった感じのこれまでの顛末を見ていると、代々木体育館を作れた日本人のリーダーシップはどこへいってしまったんだろうと思います。丹下さんの後見人的ポジションの岸田日出刀のようなリーダーが「俺の責任でやる」と言って腹を括って進めたほうが良いものができる気がするんですけどね。
評価:★★★(5段階評価)