とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」若林正恭

文才のあるお笑い芸人は又吉だけじゃない

オードリーの若林さんのキューバ旅行記です。前作「社会人大学人見知り学部卒業見込」の頃からすると1人でキューバ旅行をするまでに外向的になったのかと半ばその変化に驚きつつこの本を手に取りました。日本のお笑いはガラパゴス的にすごい進化を遂げていて、そのトップクラスで活躍する人の言語能力たるや凄いことになっていると思います。オードリーのラジオなんかを聴いていても若林さんの自身も含めてちょっとシニカルに笑う感じのトークが魅力的です。本作も主観と客観を激しく行き来する視点が魅力的な旅行記でした。

新自由主義からの逃避と受容の物語

旅行記は新自由主義への違和感や疲れからスタートします。なんと世の中のことを知るために東大生を家庭教師に雇って勉強しているという若林さん。新自由主義という言葉に出会います。資本主義に任せた競争が世界を進歩させる。勝つか負けるか弱肉強食の世界。自分はそのレースを追い立てられるように走っていることへの自覚。でもその競争に疲れたという感覚。競争の残酷さにうんざりする感覚。

かつてその競争から解放された理想郷を思い描いた人たちがいました。社会主義者たちです。競争のない平等な社会。その壮大な実験の大半は失敗に終わったとされています。世界シェアで言えば新自由主義陣営の圧勝という状態です。「新自由主義ってなんなんだろう」ということを外側から見ようと思ったら社会主義国家に行って外側から見てみるしかない。

そうして若林さんはキューバに旅立ちます。

キューバに行くなら今しかない

数年前にアメリカとの国交を再開し、カストロも亡き今、キューバはすごい勢いでアメリカナイズされつつあると想像します。町中を走るクラシックカーもそのうち観光用のタクシーだけになって、みんな電気自動車に乗り換えてしまうかもしれません。ピュアな社会疑義国家の夢の残り香が漂ううちに私もキューバに早く行って見たいと思っています。

父との対話

旅のエンディングは若林さんとお父さんとの対話です。新自由主義にも違和感を感じるし、キューバを旅して社会主義の限界も見て、たどり着いたものは。。。

 

良い旅行記を読むと旅行に行きたくなりますね。

 

評価;★★★★(5段階評価)

 

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬