とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「世界一訪れたい日本のつくりかた」デービッド・アトキンソン

見事なロジカルシンキング

デービッド・アトキンソンさんの著作は「新・観光立国論」や「新・所得倍増論」等も大変面白かったので、この新作も手に取りました。

どの著作もそうなのですが、とにかくロジカル。徹底的にデータを集め、その因果関係を分析した語り口で説得力があります。そして日本人だと当たり前だと思い込んでいる固定観念に囚われていないので、ハッとする鋭い突っ込みによって日本の輪郭があぶり出されていきます。

 

観光立国への施策

本書は特に「観光」にフォーカスし、観光立国論への戦略を具体的に語ったものです。ざっと主張をまとめると以下の通りです。

①日本は観光立国としてのポテンシャルを十分持っているが活かしきれていない
②アジアの集客は出来てきたので、これからは客単価の高い欧米系の観光客を呼ぶべき
③大量消費を前提とした昭和の観光から脱却し、より世界レベルのサービスを提供すべき
④日本人が思う以上に「自然」を活かした観光が求められているし、その方が儲かる
⑤宣伝がヘタ。特に宣伝に用いる言葉のチェックが杜撰(広告代理店に丸投げしていてはいけない)
⑥5つ星ホテルが足りない。カジノを併せ持つIRを整備すべし。
⑦文化・スポーツ・観光省を作るべし

建築やまちづくりとの関連

実際に読んでみると分かりますが、論の運びがロジカルなので説得力があります。建築に引きつけて考えると、これから求められるのは欧米の富裕層に長期滞在してもらえる5つ星ホテルレベルの超高級ホテルを自然の楽しめる立地に設計できる建築家だとも考えられます。(そう考えると隈さんの立ち位置は絶妙です)

まちづくりという視点から考えても地方に超高級ホテルが出来て欧米系の富裕層が長期滞在するようになればそのための食材を用意する人、アテンドする人、自然をガイドする人、アスレチックのインストラクター、料理人、ドライバー、エステティシャン、等新たな雇用が生まれて効果が期待できそうです。文化財は貴重な集客装置なので、その維持管理にもお金が使え、古い街並みが残せるかもしれません。

こんな人に政府の要職について欲しいなと思っていたら、すでに政府のいろいろな委員を務められているようです。

日本について右肩下がりのグラフばかり見慣れてしまった昨今、珍しく右肩上がりの成長グラフを見せてくれる観光にはもっと進化して欲しいと思わせられる本でした。

 

評価;★★★★★(5段階評価)