とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「もがく建築家、理論を考える」T-ADS編

東京大学建築学専攻Advanced Design Studies の無料オンラインコースの内容をまとめ編集し直した建築家のレクチャー集です。

講師は隈研吾磯崎新、香山壽夫、藤森照信、大野秀敏、妹島和世と日本建築界の大御所ばかり。そんなオンラインコースがあるのを知りませんでした。というかあとがきを読んで初めて知りました。

皆、具体的に自分で設計した建築をひとつ取り上げて、その場で自作や自分の建築観を語るという趣向です。

磯崎新群馬県立近代美術館

モダニズム日本的なるもの弁証法で傑作を残した師匠丹下健三に対し、キューブという純粋幾何学の組み合わせで乗り越えようとしたという設計コンセプトが語られます。しかし磯崎さん、相変わらずのバイタリティで80代とは思えない。

②香山壽夫ー彩の国さいたま芸術劇場

作品を直接見たことがないので、突っ込んだことは言えませんが、ルイスカーンの弟子ということもあって割と古典的な建築観をお持ちです。西洋建築的なボキャブラリーを用いたポストモダン建築に位置付けられると思います。磯崎さんとは違って、過剰にコンセプチャルな世界に突っ込むことを意識的に避けているようなスタンスが読み取れます。

藤森照信ーラ・コリーナ近江八幡

藤森さんは一般の人にはジブリ的な建築というと伝わる気がします。モダニズムのツルツルピカピカ路線の対局にあるデコボコザラザラした工業化されていないデザイン。歴史家として知られた藤森さんがここまで多作な建築家になるとは思っても見ませんでした。建築の知識ゼロの私の父にすこの6人の建築家の作品を見せたら間違いなく藤森さんの作品を選ぶと思います。

④大野秀敏ーはあと保育園

磯崎さんのようにアートとしての建築をドンと置くというより、敷地の周辺環境や都市との距離を計りながらその関係性にこそクリエイティビティを発揮させるという作り方の建築家であり、アーバンデザイナーです。師匠である槇文彦さん譲りの理知的で抑制の効いたデザインが特徴です。そのスタンスには私も学生時代からシンパシーを感じていました。

妹島和世ー犬島「家プロジェクト」

妹島さんはあまり言葉で饒舌に語ったり、文章をガンガン書いたりするタイプではありませんが、こうしてインタビューを読むと、プロジェクトごとの状況や敷地に対して毎回本当に愚直に向き合っているのだなぁと思います。犬島には以前一度行ったことがありますが、当時はまだ妹島さんの作品はありませんでした。また行って見たくなりました。

隈研吾ー浅草文化観光センター

大トリは隈さんです。新国立競技場を獲り、東大教授になり、ついに日本建築界の頂点に立った感のある隈さん。丹下健三に代表される「勝つ建築」に対して自分の建築は「負ける建築」であると位置付け、しっかり「勝つ建築家」になっているあたり、上手い!と唸ってしまいます。天下を取るにはデザインはもちろん、戦略が大事だと思い知らされます。

 

とりあえず、このオンライン講座見てみようかなという気になりました。

 

評価;★★★★(五段階評価)

 

T_ADS TEXTS 02 もがく建築家、理論を考える

T_ADS TEXTS 02 もがく建築家、理論を考える