とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「生涯投資家」村上世彰

あの村上ファンド村上世彰氏が今語ること

あの「村上ファンド」の村上世彰氏が自らの半生を語った本です。読んでみて随分村上氏の印象が変わりました。フジテレビの買収騒動のころメディアで報じられていたのは「強欲な投資家」という単純化されたイメージでしたが、どうもそんなに単純化できる問題ではないということがよく分かって、ものすごく面白いです。

 

コーポレートガバナンスとは何か

キーワードは「コーポレートガバナンス」。株式公開をした企業は一体誰のものか、という問題をめぐって、筋を通そうとした半生であったことが伺えます。村上氏は、株式公開をした企業は経営者の私物ではなく、公器であり、株主のチェックを受けるのは当然であると言います。そして経営者の保身のために内部留保を溜め込むのではなく、積極的に企業も事業に投資をし、利益を追求し、株主の期待に応えることによって経済の血液ともいうべき資金が循環するようになり、日本経済も活性化するはずだというのが彼の主張です。

大航海時代、貿易船に対する出資者を募る仕組みができたのが株式会社の誕生だったようです。資金や荷物を預かった船長が、出資者たちに航路や燃料の調達方法、行き先などを説明したり、場合によっては出資者から意見されるのは当然だと思います。それが嫌なら自費で航海すればよい。

出資者は資金が回収できないかもしれないというリスクを背負いますが、直接航海するわけではありません。日本人は心情的にここをなかなか受け入れない傾向があるように思います。直接働いているわけでもないのに、金にものを言わせて、と。しかし、リスクを負っている。だからリターンを受ける権利はあるし、それで大儲けしても資本主義のルールには何ら反しない。

 

投資的視点

私の本業は建築設計なので、はっきり言ってビジネスモデルとしては大儲けできるようなものではありませんが、30代半ばから少しずつ投資をするようになりました。わずかながら株を買ったり、インデックスファンドを定期的に買うようになりました。特に個別株は当たれば大きいけれど、会社が潰れればパーですから当然リスクはあります。投資を始めてみると、自分の中に労働者の視点に加えて、ささやかながら投資家の目線が生まれました。そうすると世の中がちょっと違って見える。世の中の動きにも別のアンテナを張れるようになります。

株をやったことのある人とない人で、村上氏の主張への理解度が変わってくるような気がします。

 

評価;★★★★★(5段階評価)

 

 

生涯投資家 (文春e-book)

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