とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「アート×テクノロジーの時代」宮津大輔

最先端のクリエイティブユニット

チームラボ、タクラム・デザイン・エンジニアリング、ライゾマティクス、ザ・ユージーンスタジオといった最先端のクリエイティブユニットの動向を追った新書です。

私はチームラボとライゾマティクスしか知りませんでしたが、テクノロジーやエンジニアリングの分野を起点としてデザインやアートの分野に領域横断的に活動の幅を広げていく人達が未来を切り開きつつあることがよく分かります。一昔前にはビルゲイツスティーブ・ジョブズ達が同じく領域横断的な視点を持って、ITの世界に革命をもたらし、そのインフラを構築しました。本書で紹介されているチームラボ世代のクリエイターはそれを前提として何処まで応用できるかに挑戦しているように見えます。

 

ファッショナブルな理系

共通しているのは抜群に理系のセンスがあって賢いこと、既存の価値観や組織からはみ出していること、従来のいわゆるオタクとは違ってアート、音楽、ファッションに明るく、とにかくかっこいいこと。

 

IT企業が求めるワークプレイスはリアルな空間の中に

そして面白いのはそれだけITや最先端のテクノロジーを使い倒す人たちなら対面でなくても遠隔でコミュニケーションが取れるから、物理的に集まって仕事をする必要なんてない、といいそうなところが実は逆で、高度にクリエイティブな活動を行うには対面のコミュニケーションが必要だと考えていて、魅力的なワークプレイスを作っていることです。

考えてみると、フェイスブックはフランク・ゲーリーに、アップルはノーマン・フォスターに、グーグルはトーマスへザウィックとビャルケ・インゲルスというように、世界に名だたるIT企業はこぞって超一流の建築家に大規模な本社ビルの設計を依頼しています。そしてどのオフィスもワンフロアが大きく、そこで働く人たちの偶発的なコミュニケーションの誘発を狙ったプランになっています。

リアルとバーチャルの二項対立で捉える考え方がもうきっと古いんでしょう。ITが発達してもリアルな空間、都市、建築は思った以上に重要だし、むしろ眠っていた新たなポテンシャルを引き出されていく気がします。ちなみにライゾマティクス代表の斎藤精一氏はコロンビア大学大学院で建築を学んでいます。

新しい建築の萌芽は建築界の外側にあるかもしれません。

 

評価;★★★★(五段階評価)