とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」菅村雅信

代官山蔦屋書店で行われた11回の対談をベースにまとめられた本です。計11名。各分野の第一線で活躍する方々です。

1.東浩紀 作家・思想家

2.池上高志 人工生命研究者

3.石川善樹 予防医学研究社

4.伊東豊雄 建築家

5.水野和夫 経済学者

6.佐々木紀彦 NewsPicks編集長

7.原研哉 デザイナー

8.深澤直人 プロダクトデザイナー

9.平野啓一郎 小説家

10.松井みどり 美術評論家

11.山極寿一 京都大学総長

それぞれ分野・アプローチは違うものの、文化、技術、思想、社会の相互関係の中に自分のプロフェッションをきちんと位置付けながら道を掘り進んでいるという点では共通するような気がしました。世の中はいつの時代もそれらがセットになって動いています。読んでいて大学一年生の頃に一般教養の授業を受けていたころのような心境になりました。人によってはこの本を読んでより興味を持った分野を掘り下げていく、そのきっかけにもなるかもしれません。

 

評価:★★★(5段階評価)

 

これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講

これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講

 

 

「建築家のためのウェブ発信講義」アーキテクチャーフォト・後藤連平

建築の情報サイト、アーキテクチャーフォトの編集者後藤廉平さんの本です。アーキテクチャーフォトは日常的によく見ていたのですが、後藤廉平さんという個人がやっているサイトだとは、また、その後藤さんが同世代の京都工芸繊維大学出身だということも知りませんでした。

建築家のウェブ発信

建築家のウェブ発信といえば、自身の設計事務所のHPで、プロフィールや作品の写真を掲載し、字は小さく、モダンなデザインでまとめられた素気ないものが多かったように思います。ところが今は発信のツールがHPだけでなく、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどにも広がっています。また、後藤さん曰く、建築家のウェブ発信は「学問としての建築」だけでなく「ビジネスとしての建築」にも活用できるといいます。

アーキテクチャーフォト

アーキテクチャーフォトは建築の情報をリアルタイムで伝えるニュースサイトとしてなんと現在では27万ビューを誇るといいます。それを個人で築き上げたのだから驚きです。ビジネス的にはアーキテクチャージョブボードは設計事務所の求人サイトとしてうまく回っているようです。たしかにアトリエ事務所の求人情報などはこれまで口コミでしか伝わらず、人脈に負うところが多かったので有用です。

ウエブ活用の3か条

建築家のサイトは通り一遍の構成のものが多いですが、建築家の個性は様々だし、その強みは千差万別なので、それを活かしたウェブ発信が重要です。そして3か条として下記の3点があげられています。

1.継続に勝るものはない

2.「ファンづくり」という視点を持つ

3.信頼される発信を心がける

こうしてみると建築家は自分の全人格的魅力を継続的に発信し続ける技術も設計技術と同じくらい重要な時代になっているのかもしれないなと思います。

とくに感心したのは第3講の

1.情報は受け手に合わせて編集する

2.戦略的に言葉を選ぶ

3.移り変わる社会の変化を意識する

といった項目。インスタのハッシュタグの言葉選び一つとっても誰に向けて届けたい情報なのかによって変わってきます。そこまで考え家ことはありませんでした。また、HPにしても業界向けのサイトと、一般客向けのサイトを使い分けたりする建築家も紹介されています。考えてみれば組織事務所のウェブ発信だってHPを作るだけではなく、広報室がツイッターやインスタをやっても面白いかもしれません。

建築家に設計を指南するのではなく、ウェブ発信を指南する本はおそらくこれが初めてではないでしょうか。その切り口も新鮮ですし、読むとこれは建築家必須のリテラシーであると痛感します。リテラシーのない建築家はリテラシーのある建築家にどんどん仕事を奪われてしまうかもしれません。必読書です。

 

評価:★★★★★(5段階評価)

 

 

建築家のためのウェブ発信講義

建築家のためのウェブ発信講義

 

 

 

「黄金のアウトプット術」成毛眞

おなじみ成毛眞さんの新書です。この本で言っていることはただ一つ「とにかくアウトプットしようぜ」ということです。特に文章を書く、人前で話す、自分の見た目のアウトプットといったことなどを中心に、その効果や心構えを書いています。

建築学生はアウトプットを鍛えられる

建築設計を仕事にしている人は、実は結構このあたりを学生時代に鍛えられます。特に設計課題ではコンセプトを魅力的な文章にまとめ上げる必要があるし、図面やパースなどビジュアルなアウトプットの他、模型という立体も作ります。アウトプットのセンス、能力を徹底的に問われます。そしてそれを人前で話す必要があります。単純に習ったことを覚えるのが得意なだけでは乗り切れません。卒業設計なんかになるとテーマも自由なので、正解がないどころか、問すら自分で立てて、自分で答える必要があります。

アウトプットするようになるとインプットのレベルも上がる

この本の中でも言われていますが、アウトプットをするようになると、ものを作り手目線で見るようになるので、インプットのレベルが俄然上がります。建築の学生も設計課題をやる前と後では雑誌の見方から、実作の見方までまるで変ります。作り手の意図を読み、自分の製作プロセスに組み込んでやろうと思って観るので、そこから学ぶ情報量が増えるのです。これは多分どの分野でもそうで、人前でしゃべるようになれば、TEDもそういう目で見るようになるし、自分でブログを書くようになれば、人気ブログのテクニックに気が付くようになります。

アウトプットを求められる時代

インプットだけが得意な人というのは今後、出来の悪いウィキペディア化してしまいます。なんでもネットで調べればある程度分かってしまう時代に、知識があるというだけではあまり強みになりません。独自のアウトプットがどれだけできるか。逆に独自のアウトプットができる人は、SNSだろうが何だろうが現代では有効なツールがあふれているのでどんどんチャンスを増やすことができます。

でも人気ブログを作るのは難しい

このブログは一年弱続けていますが、そのアクセス数たるや本当にわずかなものです。多くの読者をひきつける書評サイトを書くというのはなかなか難しいものだというのを痛感しました。ただ、それはアウトプットを実際にやってみたから分かったことです。最低でも100記事までは続けようと思っています。そしたら別のブログを始めるかもしれません。いろいろやってみれば自分に合っていて、かつ、人に読んでもらえる切り口が見つかるかもしれません。とりあえず、アプトプットあるのみ。

 

評価:★★★(5段階評価)

 

 

「教養としてのテクノロジー」伊藤穣一

MITメディアラボ所長の伊藤穣一さんの新書です。前作「9プリンシプルズ」は立ち読みしただけですが、文章がかなりとっつきづらい印象でした。それからすると本書は相当に読みやすく書かれている印象です。内容としてはテクノロジーが社会の変化とどうシンクロしていくかということを様々な切り口から解説したものとなっています。

第1章 「AI」は「労働」をどう変えるのか
意外な感じがしますが、Googleフェイスブックに代表されるシリコンバレーの「スケールイズエブリシング」な考え方や、シンギュラリティに対する感情な期待を疑問視しているようです。そしてベーシックインカムに言及される時代に、労働は「自分の生き方の価値を高めるためにどう行うか」が問われる時代になるといいます。この辺りの主張は昨今のIT界隈の人たちの主張とも共通しているように思います。

第2章 「仮想通貨」は「国家」をどう変えるのか
著者は90年代から仮想通貨の構想に関わっていたようですが、ICO(イニシャルコインオファリング)と呼ばれる仮想通貨でスタートップ企業の資金集めの手法に注目しているようです。インチキなICOも出てくる中で利害関係のない唯一の組織であるメディアラボが果たす役割は大きいのだといいます。国家が管理しない通貨を一体誰がどのように管理するのか、今後の動向に注目です。


第3章 「ブロックチェーン」は「資本主義」をどう変えるのか
ブロックチェーンによってどこかの中心が全体を統御するシステムではなく、部分が自立するネットワークによって経済が管理されるようになり、通貨も多様化するといいます。そして従来の概念でお金に変換されなかった価値の評価方法が重要になるといいます。

第4章 「人間」はどう変わるか?
この章では都市にも言及しています。人が歩いて回れるペデストリアンシティの概念、自動運転によるモビリティの変化、インディジネスピープルと呼ばれるその土地に昔から住んでいる民族の知恵を活かした都市の作り方、等興味深いフレーズが出てきます。

第5章 「教育」はどう変わるか?
「アンスクーリング」と呼ばれる学校教育に頼らない教育法について言及しています。単純作業や、正確さだけを求める労働や、知識量を求める仕事などがどんどんAIに置き換えられる時代にあっては、自主性のある人間を育てることが重要になるという教育法のようです。一歩間違うと教育放棄になりかねないなかなか過激な方法な気がしますが、従順な労働ロボット養成教育な側面の強い日本の教育もそれくらい自主性に振った方が良さそうな気がします。

第6章 「日本人」はどう変わるべきか?
一般人の生活に対するこだわりが低い、ロジカルな議論ができない、意思決定のプロセスに時間をかけすぎる、空気が人を動かす、ロボットへの親和性が高い、というような日本を外から眺める著者ならではの日本人分析はなかなか面白いです。やはりそうか、と思わされます。

第7章 「日本」はムーブメントを起こせるのか?
ヒッピーカルチャーなどのように新しい時代のムーブメントはファッションと結びついて楽しいものだったからこそ影響を持ちえたのだといいます。私も大学生の頃、エコロジーについての小論を授業で書かされた時に「エコをファッション化せよ」というタイトルでおんなじようなことを書いた記憶があります。正しいことを正しく伝えるだけでは人は動かない。カッコいい、楽しい、とセットでなかれば人は動かないし、逆に結びついてムーブメントになるとものすごい勢いで若者は動くし、それで時代は変わる気がします。

とまあ、最先端の場を運営する著者がパッパと引き出すトピックを追っていくと、時代の輪郭がぼんやり浮かび上がっていくというような本です。

評価:★★★(五段階評価)

 

 

「集中力はいらない」森博嗣

異能の人

森博嗣さんは小説家ですが、実は森さんの小説を読んだことはありません。読んだことがあるのはエッセイ系の本ばかりです。森さんは実は名古屋大学の建築の先生です。デザインではなく、エンジニアリング系の専門家です。著作を読むと思考方法が独特で、ちょっと異能の人という感じです。

集中力の定義が違う

この本もまさにその路線の本で、タイトルは編集者がつけたものかもしれませんが「集中力はいらない」というちょっと扇情的なものです。ただ、読んでみて思うのは森さんも小説を書いている時や工作をしている時は相当に集中しています。「集中力」という言葉の定義がちょっと違うようなのです。彼のいう集中力というのは「機械のように1つのことを延々とやり続ける力」ということのようなのです。そこを間違うと彼の本来の主張を誤解してしまう気がします。

気が向いたことをやるというテクニック

で、彼は自分はそういう意味での集中力(というか持続力)は無いから、小説に飽きたら工作をしたり、土を掘ったり、気まぐれに色んなことをやるといいます。でも実はそれは、耐えず何かに集中している状態を維持するテクニックです。その時気分が乗っていることをやる。

キャリアが複線化する時代

前回の書評でキャリアの複線化、多動力、農民化みたいなことを書きましたが、どうもリンクしているような気がしてきました。色んなことを気が向いた時にあれこれ手を出す状態は実は多分野に細切れに集中している状態なのだとすると、キャリアが複線化した時代の心の持ちようとして1つの理想かもしれません。

理系の発想

森さんは小説は金を稼ぐためにやっているだけだと言いますが、世の中にはもっと効率よくお金を稼ぐ方法なんていくらでもあるし、きっと好きに違いありません。世の中の通念とか常識を疑わずに受け入れることに我慢ならない人なのだと思います。理系なので、論理的に自分の頭で考える。その過程になるべく通念とか常識とかいう「雑念」を挟まないように心がけてきた結果かもしれません。そんな論理的思考の果てにたどり着いたところが、世の中の通念とか常識とずれていたりすることがあるので異能に見えるけれども、論理的に破綻しているのは常識や通念の方かもしれない。

そんなことを考えさせられる一冊でした。


評価:★★★(5段階評価)

 

集中力はいらない (SB新書)
 

 

「自分のことだけ考える。」堀江貴文

いつものホリエモン

ホリエモンはかなりのペースで本を書いているので、流石に既視感のある内容ではありますが、とにかく他人に惑わされる事なく自分がやりたい事をやりたいように「今すぐ」やれ、ということを繰り返している本です。

 

IT系のスピード感

特にITのスタートアップ系の人達の考え方は、業界が物凄いスピードで日々進化しているので、「とにかく荒削りでも始めてみる、早く始めて早く間違えて、早く学んで、早く修正し、早く市場を掌握する。」そういう点で共通しているような気がします。携帯のアプリにしても日々バグが修正され、アップデートされています。ということは最初にそのアプリをリリースした時はバグだらけで不完全なものだったということです。もし100%のものしか世の中には出さない!という完璧主義に囚われていたら、おそらくリリースする頃には他の企業に市場は奪われているでしょう。

建築の設計だとなかなかそうはいかないところもあります。一度建ってしまった建物を後でアップデートするのは相当に金も時間もかかります。鉄筋が足りなかったとか、梁のサイズが違ったとか、そういう不完全さを持ったままリリースしたら致命的です。だから建築は設計から施工を経るまでの間に何重ものチェックを経て慎重に慎重に進められます。そこには建築基準法や消防法などの法規もあればJIS規格もあれば、関連する企業の独自の社内基準によるチェックもあります。現場では設計図に変なところがないか気にしながら施工者が製作図を作成し、それを設計者がチェックし、さらに図面の通りに施行されているか監理者がチェックします。またそれを行政や確認検査機関がチェックします。とにかく幾重にもチェック機構が働きます。

これがデータ(IT)と物質(建築)のスピード感の違いです。

 

好きなことをやる

最近、人生100年時代になると今までのように1つのキャリアを全うするだけであとは老後、というライフプランは成り立たないということがよく言われます。キャリの複線化、まるで株のポートフォリオ分散投資を心掛けるように、人のキャリアも複数路線に分散するという考え方です。これをホリエモンは「多動力」と呼んでいます。落合陽一は「百姓化」と呼んでいます。とにかく1つの道に絞るのではなく、色々やってみる。その時にとにかく自分のやりたいこと、好きなことをやる。「苦労に耐えながら1つの道をストイックに求道者のように追求する」のが従来の日本ではよしとされていましたがその逆です。その方が時代の変化についていけるし、言われたことを真面目るやる機会のような仕事は機械やAIにやらせれば良いので、もっとクリエイティブでトンがったことができる人が求められる。そうなると好きなことをやっている人にはなかなかかないません。ユーチューバーなんかもその現れの1つでしょう。

建築家も副業?

建築設計というのは元々その職業の中に複数の職能を含んでいるようなところがあります。設計した建物のコンセプトを語ったり、理論をまとめたりする時には物書きになるし、アイデアスケッチを描いたりドローイングを描いたりする時には画家になるし、それをネットに公開する時にはウェブデザイナーになるし、ロゴデザインをやる時にはグラフィックデザイナーになるし、独立していれば経営者もやります。そこからスピンアウトするように例えば物書きで副収入を得るとか、絵を描いて稼ぐとか、グラフィックデザインをバイト感覚でやるとか、最近だとプロジェクトマネジメントとかコンストラクションマネジメントみたいな仕事には需要がるのでそれを副業的にやる方法もありそうです。

私は建築設計の仕事をたまたまやっていますが、本当はどんな仕事にもつきたくないなと学生時代考えていました。できればリリーフランキーみたいに絵を描いたり、映画に出たり、写真撮ったりギター弾いたり、小説書いたり、何が専門だかよくわからない人になりたかったです。もし世の中がそっちの方向に向かっているのだとしたら、自分にとっては嬉しい世の中になってきているなと感じている今日この頃です。

評価:★★★(5段階評価)

 

 

 

 

「PERって何?」小宮一慶

「ヤマ勘投資」で損しないために

経営コンサルタント小宮一慶氏が書いた投資指標の教科書です。私のメインの投資はインデックスファンドの定期的に買い続けるというものですが、サテライトの投資として半分遊びで個別株もちょこっとだけ持っています。自分の未来予測が当たるかどうかというゲームとして楽しんでいます。それなりに自分の中で理屈があって伸びると思った会社を選んでいるつもりですが、「ヤマ勘投資」の域を出ているとは言えません。

マチュアがプロに勝つための投資スタンス

著者の考えるおすすめの投資スタンスは下記のとおりです。

・リスクの取れる余裕資金で
・経営が安定している優良企業の株を、
・市場全体の地合いが下げている時に買い、
個人投資家の最大の武器である「時間」を活かし、長期保有する。
・そして、年3%前後の配当利回りも継続的に得ていく。

というものです。レオスの藤野さんの本と同様、この本でもやはり「時間」が武器という主張です。

そのうえで①経済分析、②企業分析、③株価分析の方法を様々な経済指標とともに解説しています。取り上げられている経済指標は、タイトルになっている「PER」も含め全部で数十ワードに及びます。はっきり言って一度読んだだけでそのすべては覚えられませんが、そもそもどんな経済指標があるのかを知っておくだけでも有益だと思います。現在自分が保有している銘柄に関する指標も今後はチェックしていくようにしたいと思いました。

それは航空機のパイロットがコックピットにずらりと並んだ計器の意味を習うようなものかもしれません。窓から見える景色だけで安全な飛行はおぼつかないでしょうから。

きっと10年とたたないうちにリーマンショックとまでは言わないまでも世界的に株価が大幅下落するフェーズは来るでしょうから、そこで割安な企業の株を買えるように今から指標を読めるように勉強をして、めぼしい企業をウォッチし始めておきたいなと思いました。

個別株の運用を行う人が一歩レベルアップしたいときに読むと良い気がします。

評価:★★★★(5段階評価)

 

図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書

図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書