とあるリーマン建築家の書評ブログ

建築、デザイン、アート、ビジネスなどを中心に興味の赴くままに読んだ本を不定期でご紹介します。

「日本再興戦略」落合陽一

メディアアーティスト落合陽一氏が日本のグランドデザインを記した一冊です。

 

「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」を3点セットとして突き進んだ高度経済成長のモデルが陳腐化

欧米を範としながら「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」を3点セットとして突き進んだ高度経済成長のモデルが陳腐化してしまった今、欧米を追いかけるのではなく「東洋思想」をベースに日本の未来を考えるべき、というのが著者の考えです。最新のテクノロジーを駆使した著者の作風からすると「東洋思想」ということはが出てきたのは少々意外でした。

 

ロボットを作って日本再興

そして日本が抱える最大の課題である人口減少・高齢化はチャンスであるといいます。その理由は3つ。

①自由化、省人化に対する「打ちこわし運動(ラッダイト運動)」が起こらない。
 労働力不足の日本では、機械に仕事を奪られることから生まれる反対運動は置きづらく、機械化を進展させやすい。

②周辺国でも機械化のニーズが生まれる
 日本に遅れて中国を中心に世界中で高齢化が進展する。先んじて機械化を進めた日本は外国に機械を輸出していけば最強の輸出戦略になる。

③教育の充実
 子供が減るから一人当たりの教育投資を大きくできる。

要は「ヒトの代わりに働いてくれるロボットや技術を先んじて開発する」というのが彼の主張です。

その他は最近世間的にもよく言われる
・自動翻訳が普及する
・自動運転タクシーが走るようになる
・5Gであらゆるものがネットワークにつながる
ブロックチェーンの進化
といった技術進化の予測や、
・いくつもの職業を掛け持ちする時代になる(彼はこれを「百姓化」「ポートフォリオマネジメントと金融的投資能力」と言っています)
MBAよりもアートを学ぶべき
ワークライフバランスではなくワークアズライフ
等といった教育や働き方に対する提言まで盛り込まれています。

 

金融業や拝金主義に対する嫌悪、ものづくりに対するリスペクト

ベースには「クリエイティブな理系こそが未来を作るのだ」という意思が感じられます。だから直接新しいものを作りだしているわけでもないのに、稼いでいる金融業とかトレンディードラマ的世界観に毒された拝金主義に対する嫌悪も感じられます。

 

「ロボットや技術ですべて解決!」というのは楽観的過ぎる気も

日本の技術者にはこれくらいの気概で技術開発をしてほしいとは思うけれど、正直、日本がロボットで世界一になれるかというと、そう簡単ではないだろうという気がします。ソフトバンクがボストンダイナミクスを買収したとはいえ、ボストンダイナミクスはやはりアメリカの会社だし、ロボットを生活の中でネットワーク接続すると、そこにはアマゾンやグーグルが入り込んでくる未来のほうがリアリティがある気がします。

 

幻冬舎の箕輪厚介氏に注目

先日このサイトで紹介した「お金2.0」も本書もヒットしているようですが、どちらも幻冬舎のNewsPicksBookというシリーズで箕輪厚介氏の編集による本です。「最新のテクノロジーが世界を変えるかもしれない」という今一番ホットな分野で、続々と注目作出し続ける箕輪氏。ツイッターをフォローしてみると型破りでかなり面白そうな人物です。引き続きウォッチしていこうと思っています。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

 

 

「幼稚園では遅すぎる」井深大

幼児教育の重要性を早くから訴えていた井深大

あのソニーの創業者、井深大さんが幼児教育の本を書いていたと走りませんでした。幼児教育の重要性に早くから気づいていた井深さんは、1969年に幼児開発協会を設立し、研究を進めたといいます。本書はその成果がまとめられた本ですが、とにかく3歳までが決定的に重要なので、その間に知的な刺激を与え、運動し、身体能力を高めるべきだということが繰り返し書かれています。60年代にそこまで見通していたこと、さらにそれを科学的に研究しようとしたこと、その先見の明はさすが世界のSONYを作った方です。

母親観はやや古いが、最新の教育書と一致する点も多い

ただ、巻末に「本当の幼児教育は母親にしかできない」という章があり、読むと幼児教育は母親がするもの、という考えが強く、やや今の時代には合わないところも感じます。そこはまあご愛敬。それを除けば、参考になる点の多い本です。

また、3歳までの教育が決定的に重要であるという点は、モンテッソーリ教育の本や、先に紹介した「学力の経済学」の主張とも一致します。

 

そう考えると保育園の環境も気になるところですが、今の東京では認可保育園に入れればラッキーという状況。これからの日本を担う人材を育成する上で、幼児教育の環境は超重要です。保育園問題は早く解決しなくてはいけませんね。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

幼稚園では遅すぎる 新装版 (サンマーク文庫 G- 108)

幼稚園では遅すぎる 新装版 (サンマーク文庫 G- 108)

 

 

 

「学力の経済学」中室牧子

教育本は玉石混交

子供の教育に関する本には本当に様々な教育法が書かれています。やれホメて伸ばせ打、いや3歳までは厳しくしつけるべきだ、英語は早く教えるほうがいいだ、いや、まずは日本語が大事だ、等々。それらの論には著者の数少ない経験に基づいているものもあれば、相当エビデンスが怪しいものもあります。

データに基づいて教育効果を分析

本書はとにかく、いったん正しくデータを集めて、正しく分析して、どんな教育がどんな効果を上げているのかを正しく把握しようというスタンスで書かれています。

相関関係と因果関係は違う

例えば「読書をする子供は学力が高い」というデータがあったとして、そこに示されているのは相関関係だけであって、読書が学力を高めているのか本当のところはわかりません。実は本を子供に多く買い与える親は、子供に勉強を促すことが多いために子供の学力が高いのだとしたら、学力に直接影響しているのは「勉強を促すこと」だということになります。これはニュースや広告の売り文句を鵜呑みにせず、自分の頭で考えるときにも必要な視点のような気がします。「相関関係と因果関係は違う」そのことを頭において冷静に考えないと、誤解したり騙されたりしてしまいます。

で、結局分析して何がわかったのか

実はこの本の主眼は、そういった「データの収集と正しい分析に基づいて教育行政を考えていくという視点が今の日本には欠けている」ということなので、分析の結果そのものを主張しようとしているわけでは必ずしもないのですが、子供を持つ予定の身としては分析結果が気になります。

・東大生の親の平均年収は約「1000万円」
・「テストでいい点を取ったらご褒美」よりも「本を読んだらご褒美」の方が子供には効果的
・「頭がいいのね」よりも「よく頑張ったね」とほめるほうが効果的
・テレビやゲームをやめさせても学習時間はほとんど増えない
・「勉強しなさい」はエネルギーの無駄遣い
・学力の高い友達に囲まれていると学力が上がる
 (ただし、優秀な友達にいい影響を受けるのは上位者のみ)
・最も収益率が高いのは幼児教育
・非認知能力「自制心」「やりぬく力」の高い子供は大人になってから成功する確率が高い
・少人数学級は費用対効果が低い
・いい先生に出会うと人生が変わる(教員免許は教員の質を保証しない)

等々。これを読む限り、やはり幼児教育の重要性が高いことがわかります。それも単に勉強ができるようにするだけではなく、非認知能力を高めることが重要とのことです。部活や生徒会、課外活動なども積極的にやらせる。そして、良い先生や友人に会える環境を探してあげることが大事そうです。

また、今の日本の教育行政がデータの収集、分析、公開に遅れを取っているのであれば早々に改善してもらいたいと思いました。

 

評価:★★★★(五段階評価)

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

 

 

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海

以前大ヒットしたこの本、アマゾンで古本が安く売っていたので買って読んでみました。ちょっと前のベストセラーというのは古本も大量に出回っていて安く手に入ります。

設定の勝利

さて、今更解説するまでもなく、本書はその名の通りドラッカーのマネジメントを高校野球のマネジメントに応用させてみるという設定の入門書であり、青春ドラマです。ドラッカーのマネジメントは名著として知られていますが、まだドラッカーを読んだことのない人にその言わんとするところを誰でも知っている野球で説明する、その設定の勝利です。

ドラッカーとの出会い

私がドラッカーを初めて読んだのは大学院生の頃、就職活動をしていた時でした。私は設計事務所に就職するため、いくつかの設計事務所にエントリーしていました。最初に面接のあった某社に行ったところ、面接開始まで結構待たされ、その間、同じ大学の先輩にあたる社員の方が、私の話し相手になってくれました。たまたま話題が読書の話になり、お勧めの本を聞いたところ、

ドラッカーは面白いよ」

と言われたのがきっかけでした。読んでみると、社会経験のない学生にはなかなかとっつきづらい内容なのですが、「社会人はこういう本を読んでいるんだ」と思いながら読んでいた気がします。

我が家の本棚のドラッカー

今も自宅の本棚にはドラッカーの「マネジメント」「テクノロジストの条件」「ネクスソサエティ」「プロフェッショナルの条件」などが並んでいます。どれもビジネスのお手軽なハウツー本とは一線を画す内容なので、さらっと読み飛ばせるような内容ではありません。数年に一度思い出したように手に取って読み返し、少しずつ理解しているような感じです。ドラッカーを読んで、それを自分の日々の仕事にどう応用するか。その一つのケーススタディーとして読むのが良いように思います。

 

評価:★★★(五段階評価)

 

 

「お金2.0」佐藤航陽

帯には「仮想通貨、フィンテック、シェアリングエコノミー、評価経済・・・「新しい経済」を私たちはどう生きるか!」とあります。まさにテクノロジーで経済の仕組みがどう変わろうとしているかを若き起業家が語っている本です。

「資本主義」から「価値主義へ」

最も印象に残ったのは「資本主義」から「価値主義」への変化を述べた章でした。著者は価値には3種類あるといいます。

①有用性としての価値価値

②内面的な価値

③社会的な価値

今まで資本主義で可視化できていたのは①だけだったのが、価値主義の考え方では②も③も可視化できるようになる。しかも①~③は互いにいつでも交換可能になる。具体的には社会的なネットワーク(ソーシャルキャピタル)を持っている人が力を持つようになり、営利と非営利の境界が消え、経済と政治の境界も消えていく。

そして複数の経済が並立する時代になり、人々はどの経済圏で生きるかを選ぶようになるといいます。

新しいマネーの乱立

たしかにすでにその傾向はあちこちで出てきているような気がします。youtubefacebook、インスタのフォロワーがずば抜けて多い人はそれだけで生きていけます。フォロワーが多く、発信力が多いという価値をお金に変換することも簡単です。個人の時間をネットで株のように売ったり、個人を株式会社のように投資対象にしたりするネット上のサービスもいろいろ出てきています。お金も円以外にビットコインもあればLINEマネーもあればTポイントもあれば、マイルもあれば、もはや新しいマネーのカンブリア爆発と言わんばかりの乱立ぶりです。世の中でなされている価値の交換を円だけではとても説明しきれなくなってきている。

資本主義のバージョンアップはIT界隈が成し遂げるかもしれない

驚いたのは著者の佐藤さんが自分より年下だったことです。中学時代だったか、高校時代だったか学校の先生が「今は民主主義と資本主義はとりあえず最もベターな社会システムだということになっている。ただし、ベストではなさそうだということはわかっている。いつかどこかの天才がこれに代わるシステムを考え付くかもしれない。」というようなことを言っていました。ひょっとしたか「資本主義」から「価値主義」への転換はそれにあたるかもしれないなと思わせられる本でした。ITという技術の発展が資本主義のバージョンアップをしつつある。そしてそれは既成概念にとらわれない若い世代がなしとげつつある。そんな感じがします。

文章も明快で分かりやすく、経営者として最先端を走りながら考えた新鮮な内容で、売れているのも頷ける名著です。

 

評価:★★★★★(五段階評価)

 

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

 

 

 

 

 

「お金は寝かせて増やしなさい」水瀬ケンイチ

最強のインデックスブロガー

インデックス投資ブロガーとして有名な水瀬ケンイチさんの著書です。水瀬さんのブログサイト「梅屋敷商店街のランダムウォーカー」は私もよく参考にしているサイトで、その見識の確かさと、どの金融機関にも所属しないブロガーならではの公平な視点が魅力です。個人的には最強のインデックスブロガーだと思っています。

インデックス投資とは世界経済の長期的な成長に賭ける投資法

インデックス投資とはTOPIXのような経済指数(インデックス)に連動して機械的分散投資を行うインデックスファンド(投資信託)で世界分散投資を長期にわたって継続的に行う投資手法です。

インデックス投資は世界に自分のお金を分散投資するので、個別株のように突然2倍に跳ね上がるとか、逆に一夜にして暴落して紙切れになるということがありません。その代わり、世界の経済に連動します。だからリーマンショックのようなことがあると試算はそれに合わせて減少してしまいます。ただし、長期的には世界経済はおおよそ3パーセントくらいずつ成長し続けています。インデックス投資はこの世界経済の長期的な成長に対する信頼をベースとしています。

インデックス投資(パッシブファンド)VSアクティブファンド

この投資法(パッシブファンド)は優秀なファンドマネージャーたちがその「専門知識」を活かして伸びそうな会社の株を買って運用してくれるパッシブファンドと比べてどうか。なんと70~80%のアクティブファンドはパッシブファンドに負けているのです。それはパッシブファンドの手数料の安さによります。パッシブファンドを売りたい人にとっては不都合な真実ですが、これは研究の結果ほぼ間違いない真実です。

バイブル「ウォール街のランダムウォーカー」

「結局インデックスファンドを長期的にコツコツ積み立てるのが一番」というこのインデックス投資の理論の総本山は、本書でも紹介されているバートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」という名著です。私も読んでみましたが、水瀬さんの本を読んで興味を持った人にはぜひ一読をお勧めします。

大事なのはブレないこと

インデックス投資で重要なのはコツコツ続けることで、そのためには心の底からこの手法を理解し、信頼し、ブレないことです。本書でもブレないためのコツがいろいろ開陳されていますが、水瀬さんもインデックス投資を始めてから本当にブレていないことに驚きます。ブログでも常に愚直に、冷静に、決めたことを淡々と続けられている様子がうかがえます。

ドルコスト平均法、リバランス、あとはほったらかし

生活防衛資金を確保したうえで、残りの資産を先進国株、日本株新興国株のインデックスファンドと国債にあるバランス(アセットアロケーション)で振り分ける。その割合で毎月一定額インデックスファンドを同じ金額だけ買い続ける(ドルコスト平均法)。年に一度それを最初に決めたバランスに微調整しなおす(リバランス)。あとはほったらかし。それだけです。

注目は第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」

注目は第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」です。リーマンショックギリシャショック、東日本大震災など世界経済のピンチを乗り越えてひたすらインデックス投資を続けた水瀬さん。なんと15年で積み立て元本は150%に増えたそうです。具体的には4000万円の元本が6000万円に増えています。具体的な金額はブログでも紹介されていなかったので元本の大きさも含めて驚きでした。私も10年早く知りたかった!

あのウォーレンバフェットでさえ、子孫にはインデックス投資を勧めています。インデックス投資の入門書としても、経験者が自分のスタンスを再確認する上でも超おすすめの一冊です。

 

評価:★★★★★(5段階評価)

 

お金は寝かせて増やしなさい

お金は寝かせて増やしなさい

 

 

 

 

 

 

「世界のエリート投資家は何を考えているのか」「世界のエリート投資家は何を見て動くのか」アンソニー・ロビンズ

カリスマコーチが世界の投資のプロに聞いた資産運用の奥義

アンソニー・ロビンズという世界カリスマコーチが金融界の大御所たちに投資の秘訣を聞いて回ったインタビュー集です。何をもって世界No1のコーチングなのか、そもそもコーチングって何なんだろうという疑問も若干ありますが、山崎元さんが解説を書いているということで読んでみました。

結局インデックスファンドで分散投資

ウォーレン・バフェット、ジョン・C・ボーグルくらいは知っていましたが、レイ・ダリオその他の投資家の名前はこの本で初めて知りました。みんなそれぞれ投資の秘訣や人生の秘訣を語っていますが、やはり共通しているのは手堅くインデックスファンドで世界に長期分散投資を続けることの効果を語っています。

他人のためにお金を使う人は幸せ

また、印象に残ったのは人は他人のためにお金を使った時のほうが幸せを感じる人の割合が高いという実験結果でした。慈善団体に寄付するとか、そういう使い方をすることで自己肯定感が高まったりもするのでしょうか。毎年決まった額をどこかに寄付することにしてみようかな。

 

評価:★★★(五段階評価)